第2話

「ん? 何?」

「オレに……彼女の作り方、教えてくれないか……。彼女は欲しいけど、どうすればいいのか、さっぱりわからない」

「……何それ? 変なの。けど、ウチは彼女の作り方とか知らないな。ウチを彼女にする方法なら教えられるかもしれないけど、どうする?」


 ニヤニヤ。この見透かした笑顔、ひどく落ち着かない。

 そもそもなんでまた声をかけた。ただ、自分の名前を認識してくれていただけのことが、そんなに嬉しかったのか? 誰とも関わらないことくらい、どうってことないはずなのに?


「……それでも、いい。頼む」

「そう? なら、お互いを知ることから始めようか。加賀君の趣味は?」

「あ、えっと……漫画?」

「描く方? 読む方?」

「え? そりゃ、読む方」

「そっか。なら、ウチと一緒だねー。他にも色々あるけど。友達いないのはなんで?」

「……タイミングが合わなかったというか……。転校生だし……」

「なら、作らないわけじゃなく、作れない感じ?」

「……どっちだろ」

「ふぅん。彼女ができたら何をしたい?」

「……手を繋いで歩くとか、一緒に励まし合って勉強とか」

「本当にぃ? もし、ウチを彼女にする気があるなら、誤魔化さないで率直に言ってほしいね。もう一度訊くけど、何をしたいから、彼女が欲しいの?」


 桧山さんは、また見透かすようにオレを見つめる。あんな噂がたつくらいだから、たぶん、恋愛的には経験豊富なんだろう。だからこそ、男子の煩悩なんてわかりきっている。誤魔化しきれる気がしない……。


「その、色々と」

「具体的には?」

「……い、色々とだよ!」

「それじゃあわからないなぁ」

「わかってる顔じゃないか!」

「えー? そんなことないよ? ウチはー、男の子のことなんてー、ぜーんぜんわからなくてー」

「めっちゃ棒読み!」

「そうかなー? で、何をしたいの? 教えてくれないの? それとも、ウチが彼女になったとしても、本当の気持ちは口にしないで、誤魔化していくつもりなの? そんな人と恋人にはなれないなぁ」

「……それは、えっと、でも……」

「言いたいこと言えばいいじゃん。ウチとはまだ友達ですらないんだし。何を言われたってウチは気にしないよ。だいたい、自分は煩悩のない無害な人間だよー、って薄っぺらな嘘を吐かれる方が嫌だね」


 オレは頭を掻く。正直、桧山さんのことはほとんど何も知らずに声をかけた。期待していた理想像があったわけじゃない。清楚で純潔な乙女を求めていたわけでもない。だから、この言動に幻滅なんてしない。

 むしろ、このあけすけさに、どこか居心地の良さを感じてしまった。


「……色々っていうのは、つまり」

「つまり?」


 オレは、ぼそぼそと己の欲望を吐き出す。それを、桧山さんは満足げに聞いていた。

 吐き出しきって、言い過ぎたかと恥ずかしくなったとき。


「なるほどねー。感想としては……平凡過ぎて拍子抜け、かな」

「平凡過ぎて……?」

「言い淀むくらいだからもっと特殊な趣味してるのかと思ったのに、絵に描いたような平凡な煩悩なんだもん。つまらないなぁ」

「……っていうか、桧山さん、引かないの? こんな話されて」

「男の子なんて皆同じこと考えてるじゃん。いちいち引いてたらきりないし、共学の学校なんて通えないよ。いけないのは煩悩を持つことじゃなくて、自分を制御できなくなることだよ。そうでしょ?」

「……そうだね」


 それからも、今まで男子とも話したことがないような、あけすけでおおらかな話をした。

 初体験過ぎてびっくりして、ドキドキして、ドギマギして、混乱してしまったけれど。こんなに率直に話せたのは初めてのことで、正直、とても気分が良かった。

 そして、オレの家とは方向が違うのに、桧山さんを家まで送り届けてしまった。それでも、全然苦じゃなかった。単純に、出来るだけ長く一緒にいたかった。人との交流に飢えていた、とかではないはずだ。

 その日以来、オレは桧山さんと交流するようになった。友達の範疇ではあったのだろうけれど、桧山さんと過ごす時間はとても楽しかった。

 休み時間におしゃべりして、一緒に遠回りして下校して、家に帰ってから電話をして、励まし合って勉強をして。それがとても楽しくて嬉しくて。

 桧山さんを本気で好きになるのに、時間はかからなかった。

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