第73話 進撃する魔王軍
※三人称視点
アレフティナ王国辺境部にある村が、大挙して現れた魔物たちによって破壊の限りを尽くされていた。
駐屯していた王国軍の兵士たちは村人を逃がすのに奮戦し、すでにすべてが死に絶えていたが、彼らの活躍のおかげで大半の村人は逃げ出せていた。
そんな廃墟と化した村の中で、火を付けられて焼け落ちる建物を見つめるサキュバスが高笑いをしている。
「フハハハっ! わたくしはついているようね。フォボス様を討った憎きヤマト・ミヤマを倒す機会を得たとは……絶対にこの手であの勇者の首を挙げて見せるわ。フォボス様、吉報をお待ちください」
彼女は王都に送り込んでいたシャドー種族たちが、息絶える寸前に送った思念を受け取っていたのだ。
おかげで主君であるフォボスを討った後、国を追われ行方知れずになっていた召喚勇者ヤマト・ミヤマの居場所を期せずして突き止められた。
宿敵の居場所を突き止めた彼女は歓喜し、ユーグリッドの残党を麾下に加え終えると、嬉々としてアレフティナ王国へと軍勢を進めていた。
そんな彼女の元に、目深に外套を羽織った人影が一人近づいてきていた。
「ライラス殿、村の制圧は完了しました。王国軍との戦闘での損害は軽微、村人こそ逃がしましたが敵兵一〇〇名を討ち取りました」
「ふん、王国軍などに手間取るようではわたくしが逆に兵たちの命を吸い取らせてもらう。そういう約束での助命していたはずだ」
「分かっております。倒した王国軍兵士はゾンビとして私が蘇らせますので、兵たちの命を吸うのはご勘弁ください」
「ノーライフキングとして、ユーグリッドの右腕だったお前には期待しているわ。期待に背けば……その時は」
ライラスの手に突如現れた禍々しい色の刀身をした剣が、外套を目深に被った人影に突き付けられていた。
人影はユーグリッドの右腕を務めていた、ノーライフキングとなったリッチモンドという男であった。
彼はユーグリッドから、ライラスとの戦闘で傷ついた者たちを連れ、森の奥深くに隠れ潜めとの指令を受けていた。
そして、指令通りユーグリッドが敗北した後も、彼の配下を連れ森の奥深くに隠れ潜んでいたのだ。
ライラスはフォボスをユーグリッドの血でできた池に沈めた後、自らの軍勢を率い、森の奥に隠れていたリッチモンドを包囲し、配下の助命を条件に投降させていた。
「剣をお下げください。今より、儀式を始めます」
「ふん、ゾンビなど使い捨ての肉壁だが、居ないよりはマシか」
ライラスは配下が集めてきた王国兵士の死骸の山に目をやる。
今率いている魔王軍も、リッチモンドの力を使い、戦いで倒れた魔物たちをゾンビ化させて引き連れてきていた。
ノーライフキングであるリッチモンドは、生き物をアンデット化させられるスキルを持っているため、倒した敵も倒れた味方も配下としてアンデット化できるのである。
「魂を失いし、肉の身体に仮初めの魂を刻み付け、我が僕として使役せん! クリエイトゾンビっ!」
リッチモンドが呪文を唱えると、山と積まれていた王国軍の兵士たちの死骸はズズズと動き出し、次々に立ち上がっていく。
死体がゾンビとして蘇った瞬間であった。
「ふん、汚らしいやつらだ。とっととわたくしから遠ざけよ」
ライラスは蘇ったゾンビの姿を見て、顔を背けると追い払うように手を振った。
「御意、では私はゾンビたちを率いて逃げた村人を追いながら先行いたします」
「さっさと行くがよい」
リッチモンドはライラスに一礼すると、立ち上がったゾンビたちを率いて廃墟となった村を後にして王都へ進撃を開始していった。
「ユーグリッドの残党たちをリッチモンドの後ろに付けて進軍させよ。勇者ヤマト・ミヤマを疲れさせるための捨て石とする。わたくしたちは最後方だ」
リッチモンドを見送ったライラスは脇に控えていた副官にそう告げると、豊満な胸を揺らし愛馬に跨り、ゆるりと廃墟の村を出発した。
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