第71話 普通に綺麗な奥さんが化けてびっくりした。
アドリー王との決闘に勝ってから一ヵ月。
俺たちの結婚式当日は快晴に恵まれていた。
結婚式の会場は、俺たちの住むクライト公爵邸を使用している。
これはミュースが申し出たことで、王城で式を挙げると、俺がアドリー王の正式な後継者だと周囲に認められかねないと、強硬に彼女が反対したため自宅で執り行われることになったのだ。
王城で盛大な式を模索していたアドリー王は最後まで抵抗したが、娘と孫娘たちに説得され渋々自宅開催を了承した。
とはいえ、アレフティナ王国最大の公爵家新当主と、国王の養女との婚姻は多数の列席者を招いて盛大に開催されている。
「パパー! 入ってきていいよー!」
ドアの奥からキララの声が聞こえてきた。
ミュースとキララとエルがドレスを着るため、男の俺は外に追い出されていたのだ。
くぁああ! 緊張する! 結婚式がこんなに緊張するなんて誰も教えてくれなかったぜ!
ミュースやキララやエルは、どんなドレス着るのか教えてくれなかったからなぁ。
俺はふぅと息を整えると、ドアを開けて中に入っていく。
「入るぞー」
「パッパ! ドレス綺麗!」
タタタと駆け寄ってきたのは、裾の長い真っ白なウエディングドレスを着たエルだった。
銀色の髪には綺麗なティアラが輝き、首元からは瞳と同じ真っ赤なルビーのネックレスが輝いている。
くぉおお! これは
すぐに魔法を発動させると、水晶玉をエルに向けていた。
「エルぅーー。可愛いなぁ! いやーすごい似合っているぞ!」
「みー、みー」
蝶ネクタイを付けたミーちゃんも、エルに身体を摺り寄せて目を細めていた。
ちなみにスラちゃんは頭(?)の部分にちっちゃい王冠を被っているのが見える。
「パパー、エルちゃんだけじゃなくてわたしのはどうー?」
キララは俺の前に来て、クルリと身体を一回転させていた。
漆黒の髪は、宝石をあしらった櫛で綺麗に結い上げられており、エルとお揃いのデザインのドレスを着ているキララは、一国の王女様と紹介されても納得できるほどの淑やかさを見せている。
キララ……キララ……ウエディングドレス姿を見れてパパは満足だぞ……。
「ウゥ……ウゥ……キララ、立派になったなぁ……パパは、パパは嬉しいぞ」
俺は半泣きになりつつ、キララの姿を水晶玉におさめていた。
「パパ!? なんで泣いてるの!?」
「いや、キララは立派な女の子になったなぁって思ったら泣けてきた」
「パッパ泣いたらダメー」
「スマン、スマン。今日は泣かないって言ってたしな」
けれど、二人の娘のウエディングドレス姿に感動して、すでに俺の涙腺が弱くなっていた。
そんな俺にハンカチを差し出してくれたのは、仕切りの奥から出てきた綺麗に化粧をしたミュースであった。
「パパ、泣いたら一張羅にシミができてしまいますよ。さぁ、これで涙を拭いてくださいませ」
「あ、ああ。あぁああああああああああああああああああああっ!!」
視線を上げた先にいたミュースの姿を見て、俺は素っ頓狂な声を上げていた。
いつもすっぴんに近い化粧しかしてなかったミュースだが、バッチリと化粧を決めた今日はいつにも増して美人度が激増していたのだ。
マジか……あれ? 俺ってこんな美人と結婚する話になってたのかよ。
いや、普段から綺麗なんだけども別人と言っていいほどのレベルで綺麗になっているんだが。
「な、なんでそんなに驚かれているんですか? はっ!? 化粧が濃すぎましたか? リーファ王妃からはしっかりと化粧しないといけないと言われたので仕方なく……パパの好みには合わなかったようで……すぐに化粧を落としますから」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って! すごい、すごい似合ってるから! 私の奥さんがすごい綺麗で度肝抜かれただけだからっ!」
俺の言葉を聞いたミュースが視線を伏せて、顔を赤くする。
「ママが照れてるー!」
「照れてるー!」
娘二人に茶化されたミュースが更に顔を赤くして顔を隠していた。
「いや、ママが素晴らしすぎて……私はママを迎えられて幸せ者だ」
「パッパ、幸せ者ー!」
「パパも照れてるー!」
「もう、パパは大げさに驚き過ぎです。わたくしは歳も行っていますし、そんな美人ではありませんよ」
そう言って照れるミュースだが、俺基準では、この国の中でも容姿はずば抜けていると思っている。
この姿を写真に納めたいなぁ。
……っと、そう言えばクッソ使えねぇって言って封印してた魔法が写真みたいな物を作れたな。
俺は記憶の片隅にあった一つの魔法を思いだしていた。
その魔法は
「キララ、エル、ミーちゃん、スラちゃん、そしてママ。ちょっと集まってくれ」
俺は
「3・2・1・ハイっ!」
バシュっと強い光が集まっていた俺たちに降り注ぐ。
しばらくすると、光は消え一枚の紙になって降ってきた。
「パパー! これって! 写真ー!!」
「ああ、魔法として覚えてたんだ。けど、ほらこっちの動画があっただろ。だから、使わなかったんだけど、今日は写真を撮りたい気分だった」
「パッパー! エルが映ってる!」
「わたくしも……」
「みー、みー」
キララが持つ写真には俺たち家族が一枚に収まり映っていた。
その姿は家族そのものであり、客観的に見ても幸せに満ち溢れた家族の肖像であった。
これが俺の家族か……親父やお袋にも見せてやりたかったなぁ……。
今回の結婚式は新郎である俺に身内はいないので、公爵家の親戚たちが参列してくれていた。
俺の本当の両親はすでに他界しており、日本には学生時代の友達や、交流のあった母親の妹である叔母一家くらいしかいなかった。
とはいえ、異世界に来て一五年以上経っているため、死亡宣告されて戸籍も残っていないだろうが。
異世界で結婚して子供まで持ってるなんて誰も信じないだろうな。
写真を見ながら自分の人生が波乱に飛んだものだと再認識し、ふと笑いがこみ上げていた。
「パパ、なんで笑っているんです? まさか、わたくしの顔を見て笑って――」
「違う、違う。私はこの世界に来れてとっても良かったと思えただけさ」
「キララもパパとママとエルちゃんとミーちゃんとスラちゃんと会えてよかったー!」
「エルもー!」
この場にいる誰一人として血の繋がりを持たない家族だけど、世界で一番幸せな家族だって断言できる気がしている。
そしてこれからもずっと幸せな家族として過ごしていくことになるはずだ。
そんなことを考えていたら、ドアがノックされた。
「新郎様、新婦様も式の支度が整いましたのでご入場を」
「あ、はい! すぐに行きます! ほらみんな行くぞ」
結婚式は王宮のメイド長によって仕切られており、俺たちは彼女の指示に従って式を粛々と進行していくだけであった。
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