第69話 父親とは難儀な生き物なのであった
牢獄での一件を俺は国王であるアドリー王にすぐさま報告に行っていた。
「ドーラス師、牢獄の件はご苦労だった。我が国の中枢に魔物が送り込まれていたとは……」
「討伐したシャドーは人に化けて、情報操作や収集などを行う魔物でして……色々と魔王サイドにこちらの情報が漏れたかもしれません」
アドリー王も自国の中枢にまで魔物が入り込んでいたことで危機感を感じているようだ。
「衛兵には警備を厳重にするようにと通達は出したが……人に化けるとなると……」
「奴らは
ゼペルギアではシャドーたちが多数王国に潜入して、情報操作、こちら側の作戦情報も漏れて色々と苦労させられた記憶しかない。
とはいえ、今回は速攻でキララへの妨害工作を行った三人のシャドーを捕縛できたことに驚いていた。
「だが、我が国において勇者キララを罵倒すれば、即衛兵に通報されるとはシャドーたちも思ってなかったであろうな。これもひとえにドーラス師の親バカ映像満載の
アドリー王が、今回の事件の迅速解決に寄与したキララの映像を収めた水晶玉を指差して笑っていた。
どうやら、今回シャドーたちが即捕縛されたのは、俺が撮ったキララたちの映像や実物を見て贔屓にしてくれていたため、シャドーたちがキララの暴言を吐いた瞬間、通報されたらしい。
もしかしてキララの能力は映像を通じても伝播するのだろうか……。
でも、おかげでキララの勇者としての地位は盤石になっていたようだ。
「全てはアドリー王の高い見識によって、私の提供した映像を流布して頂いたおかげです。娘に成り代わり、アドリー王には感謝を申し上げます」
「いや、礼には及ばん。キララ殿は我が孫と同じ。街ではわしの孫自慢だと言われておるがな。国民もキララ殿を愛しておるということだ」
アドリー王が自慢の孫を国民も好いていると知ってニヤニヤしていた。
同じ召喚勇者である俺とキララが圧倒的に違うのは、国王や国民からの支持率が非常に高いことだ。
溺愛といっていいほどの好感度の高さを国王や国民からキララは得ている。
「当たり前ね。キララちゃんは我が国民の希望ですもの。あの子の映像を見て、みんなほっこりと幸せに浸って明日も一日頑張ろうって思えるからね。そんなキララちゃんがずるしてるなんて暴言は許せないわ」
奥の部屋からリーファ王妃も現れた。
今回のシャドーたちの放った暴言にかなりご立腹のようだ。
「リーファ王妃、キララも今回の件は心を痛めたようでしたが、試練として乗り越え成長の糧になったようです」
「そう、それはよかった。でも、ドーラス君、キララちゃんには明日私のところに来るようにと伝えておいて。ごちそう作って待ってるから」
リーファ王妃もいたくキララのことを気に入っているので、今回のことには心を痛めていたらしい。
なので、今回の件で傷ついたキララの心を少しでも慰めようとしてくれていた。
「承知しました。リーファ王妃のお心遣いキララには伝えておきます」
「ドーラス師、それでどうする? キララ殿のスキル能力の件は?」
「どうすると申されますと?」
「こういった事態が起きた以上、わしは能力を隠せば要らぬ詮索を生むと見ておる。ならば、いっそのこと公開してしまえば良いではないか」
アドリー王は、キララの持つ能力を公開しろと提案してきた。
隠せば詮索されるというのは、確かに一理あるな。
キララには絶対に俺と同じ道は味合わせたくない、今回の件で絶大な支持があると分かった以上、能力は公開するべき案件かもしれんなぁ。
俺はアドリー王からの提案を真剣に検討し、結論を出した。
「アドリー王のご提案、了承させてもらいます」
「おおそうか。キララ殿には隠し事なく健やかに成長して欲しいからのぅ」
アドリー王は好々爺らしい顔付きをして微笑んでいた。
その様子は、孫をとてつもなく甘やかすおじいちゃんだと思われる。
「ただ、公表まで少し時間をください。そうですね……私とミュース殿の結婚式を一ヵ月ほど後に予定しておりますので、その後行われる養子縁組の会場にて発表という形ではどうでしょうか?」
それまで、ニコニコとしていたアドリー王の額に青筋が走っているのが見えた。
はっ! しまった! 今俺って自分でミュースとの結婚の日取りを伝えてたよな?
もう一度、アドリー王へ視線を向けると、腰の剣に手をかけている。
完全に『わしを倒してからミュースと結婚しやがれ』と言いたそうにしていた。
「キララ殿の件は了解した。それと、ドーラス師。ついに日取りを決めたか! ならば、分かっておるであろう! 結婚の許しが欲しくば、わしに決闘を申し込め!」
俺を含めて娘を持つ父親ってのは本当に面倒臭い。
これさえ、なければアドリー王は最高の上司なんだけどなぁ。
まぁ、仕方ないミュースを手にするためには全力で排除させてもらう。
「ドーラス君、キララちゃんたちの養子縁組の件は、私とミュースできちんと進めておくから、アドリーが怪我しない程度にしておいてね。結婚式当日に新婦の父親が包帯だらけだと笑えないから」
「リーファ! わしはまだ現役の剣士のつもりだぞ! ドーラス師の剣の腕が立つのは知っておるが一太刀で終わらせれば……」
アドリー王の目がヤバイ。
俺を殺る気に満ち溢れている。
だが、ミュースのためにやらせるわけにはいかない。
「アドリー王、悪いですが私は一太刀でやられるほど甘くないですよ」
「ぐぬぅ! よかろう! 目に物を見せてくれる! 勝負は明日の午後としよう! それでいいか!」
「御意!」
俺は一礼して頭を下げる。
ミュースと結婚するためには通らねばならない道である。
主君であり上司であり義理の父親でもあるアドリーから、ミュースとの結婚を勝ち取るため決着を付けることにした。
「アドリーもドーラス君も……男親って馬鹿ねー。ふぅ、ミュースちゃんもキララちゃんもエルちゃんも大変だわ」
その場にいたリーファ王妃だけが呆れたようにため息を吐いていた。
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