18.始まりの残光

 日の光が差し込んだ、朝焼けのオアシスの片隅。

 朝食用の食材を収穫していたオームギは、不意に現れた旅人の一人、エリーゼに朝食の手伝いをすると提案され、困惑していた。


 エリーゼが言うには、鉄の板が二枚重なったこの珍妙な道具を使って料理の手伝いをするらしい。見知らぬ道具を前にしたオームギは、未だ目の前へ現れた彼女の意図が分からず、一層警戒心を強めるのであった。


「そんなもので、いったい何を作ろうと言うのかしら」


「……? 何って、ホットサンドですよ。見ての通り、これはホットサンドメーカーです。しかも一度食べた事のある料理は何でも作れる、すーぱーとっても優れものな一品です。気になりませんか?」


「ホットサンド……外の世界ではそんなものが流行っているのね。でも残念、ここでは家畜は飼っていないし、湖には魚も住んでいない。タマゴもミルクも無い。せっかく手に入れたお肉だって昨晩貴方達が食べ尽くしたから残っていない。パンですらもう使い切ったから新しく焼かないと無いわ。こんな状況下なのに、そんな板切れ一つでいったい何を作ろうって言うのかしら」


「チーズと干し肉なら実は少しだけ手持ちがあります。何より、これは何でもホットサンドメーカー。私のエーテルに宿る情報から料理を再現し、極めつけは勝手にパンを用意してくれる気の利く道具です。すなわち、こちらのオアシスに実った野菜や果物を提供して頂ければ、理論上あらゆる料理を用意出来ると言っているのです……!!」


「な、なんですって……!?」


 オームギは警戒心からエリーゼを拒み、無理難題を吹っかけたつもりだった。しかしそんな彼女の思惑をはるかに超える展開によって、ついにオームギはエリーゼの言葉に心が躍ってしまうのであった。


「しかし、よりにもよって外の世界にはそんな道具が存在してたなんて……不覚だったわ」


「あれ……。本当にこの魔道具の事は知らないのですか? てっきり分かっていて言っているものかと」


「どういう事? そんな便利道具も知らなければホットサンドなんて料理も知らないわ。というか、知っていたら迷わず使っていたわよ。そんな優れもの、いったいいくら払ったら買えるの?」


「買えませんよ。これはこの世に一つしかありませんし、私は手放す予定などありません。これは始まりの魔術師クリプトが作った七つ道具が内の一つ『何でもホットサンドメーカー』なのですから」


「くっ、クリプト……!?」


 オームギの中で渦巻いていた点と点が線で繋がった。エリーゼは、昨晩の彼女の言葉からクリプトと関りのある人物だと感じ、この砂漠の魔女に接触を図っていたのだ。


 しかし妙に会話が噛み合わないと感じたエリーゼは、不思議そうにオームギへと質問を投げかける。


「やはりクリプトさんとはお知り合いの様子……。しかし変ですね。サンドイッチの考案者にしてクリプトさんとは知り合いなのに、ホットサンドを知らないなんて。本当に食べた事も作った事も無いのですか?」


「……ちょっと待って。そのホットサンドってのは、どんな料理なのかしら」


「どんなって、文字通りホットなサンドイッチです。温かい具を挟んだり、具材を挟んだ後パンごと焼いたり。まぁ要するに、サンドイッチの派生ですよ」


「あぁ……なるほど。アレの事を言っていたのね。納得だわ……」


 エリーゼの説明を受けて、オームギはホットサンドとは何なのか理解する。


 それは過去にオームギが気分転換に作り案の一つとして生み出したサンドイッチのバリエーションであり、それと同時にとある旅人のお気に入りでもあった。


「!! ではやはり、オームギさんはあのクリプトさんと親しい仲だったのですね!? クリプトさんは何を思ってこの魔道具や七つ道具と呼ばれる数々を作ったのでしょうか!?」


「し、知らないわよそんなの……。何百年かそれ以上前か、確かにそのホットサンドってのは私があいつへ振舞ったわ。でもまさかその後、そんな魔道具を作ってまでして再現しようとしていたなんて、思いもしなかったんだから……」


 意外な事に、オームギはこのホットサンドメーカーの存在を知らなかった。彼女との交流を深めるためと会話を切り出したが、知らなかったとなると話は変わってくる。


 ではどうすれば彼女の気を引く事が出来るだろうか……。賢人と呼ばれた存在へ思いをはせ、エリーゼはオームギの知的好奇心をくすぐるある提案を口にした。

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