22.檻の中と蚊帳の外
シキやエリーゼが盗賊団と激闘を繰り広げていた頃。
魔術雑貨屋から少し離れた崖の下にて。
「くっそ~! この檻、びくともしないッスー!!」
「フンニャ~」
「チャタローもさぼってないで手伝うッスよ! 早く加勢してアネさんの力になるんスから……!!」
開戦早々氷の檻に閉じ込められたミルカとチャタローは、各所から聞える戦いの音を聞きながら何も手が出せないでいた。
強固に作られた檻は壊す事も溶かす事も、当然隙間から抜け出す事も出来ないのであった。
「またウチらだけお留守番ッスか~!! そんなキャラ担当なんて絶対に嫌ッスよー!!」
「フンニャ?」
「チャタローだってうかうかしてられないんスからね! 今まではアネさんと共に唯一無二の特攻隊長だったッスが、今はもう首飾りのせいで誰だって担えるようになっているんスからね~!!」
「フン、ニャ~」
そんな事どっちでもいいといった様子で、チャタローは必死なミルカとは対照的な態度で檻の隅で身を包める。
「もう! ウチらは一蓮托生。チャタローがやる気を出さないとウチだって本気が出せないんスから、そこんところ分かって欲しいッスよ~。はぁ。ところで、あなたはそこで何してるんスか? ネオンさん」
「…………?」
ミルカとチャタローが捕らえられた檻の横で、私も部外者と言わんばかりにネオンはジッと立ち尽くしていた。
「敵のウチが言うのもアレですが、加勢しなくていいんスか? 一応北の関所を無理やり乗り越えたぐらいにはウチらも強いッスよ?」
「…………」
彼女の助言など気にもせず、ネオンは捕らえられたミルカをジッと見つめていた。
「なんスかその態度は……。まるで自分なんかいなくても負けないとでも言いたげな!? ウチらだってアネさんのために命張って戦ってるんスからねー」
「フンニャー」
「…………」
ミルカの言葉を聞きつつも、ネオンは表情一つ変える事は無かった。その様子を不思議に思ったミルカは、じっくりと彼女の立ち振る舞いを見定める。
何も語らない彼女が何を伝えたいのか。その表情が何を意味しているのか。その答えは。
「はっ……!? なるほど……そういう事ッスか。ウチらが逃げ出さないように見張ってるんスね……! まさかウチらを一番に警戒するとは……流石ネオンちゃんッス。ウチが見込んだだけあるッス!」
「フンニャー?」
「…………」
多分違うと思う。猫の言葉など分からないが、チャタローはそう言いたげに鳴き声を上げていた。
「ぐぬぬ……では一体何がしたいんスか! ウチには分からないッス~!! はっ、頭を抱えた瞬間とっておきの案が浮かんでしまったッス……!?」
一人勝手に盛り上がっているミルカをチャタローは無視しようとした。すると突然、チャタローは彼女にそのふとましい身体を持ち上げられた。
「ネオンちゃん~! チャタローだけでも広々としたそっちへ移してあげたいッス! この恵まれた身体にここは狭すぎるッス! このさぁ! 柵に触れてチャタローを受け取るッス!! さぁさぁ!!」
ミルカは必死にそのデブ猫を持ち上げネオンに受け取らせようとしていた。いや、実際の目的は別にある。
ネオンにこの檻へ触れさせる事で隠された壁を壊したように、この強固な檻も壊して貰おうとしたのだ。彼女の力は腕力ではなく触れるだけで発動するのは既に何度かその目にしていた。だからこの作戦にも勝算は十分にあった。
「…………」
「フン……ニャ?」
「え…………えっ?」
だが、結果としてネオンは受け取らなかった。
ミルカの浅はかな案など、ネオンにはお見通しという訳だったのだ。……多分。
ミルカはゆっくりとチャタローを下ろし、地べたへと膝を抱え座り込んだ。そして檻の外へいる少女にそっと語り掛ける。
「……決着がつくまで、ここでゆっくりするッス」
「…………」
コクコクとネオンは首を小さく動かし、囚われの少女に賛同した。
二人と一匹は、檻の中と外でしばらく時が流れるのを待っているのであった。
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