15.5度目の本気と本音の本気
時刻は昼過ぎ。
忙しい時間帯も終え、そろそろ飲食店も空いてくる頃だろう。
商店街に入ったシキは、ふとある事を思い出し立ち止まる。
「……そうだ。このままでは金がないな」
魔物は無数に狩った。しかしまだドロップ品を換金していないのである。
シキは狩りに出かける前、ミコから貰った2000ゼノで短剣を買っていた。
つまり現在の所持金は、サラから預かった1000ゼノのみである。
「これを使う訳には……いかないよなぁ流石に」
一枚だけ残った紙幣を片手に考える。
「ん、シキくんどうかしたの??」
先導して歩いていたアイヴィは、くるりと回り立ち止まっていたシキへ問いかけた。
「あいにく手持ちが無くてな。先に換金がしたい」
手に持った紙幣を戻し、シキはお財布事情を伝える。
「え~お腹空いてるのにぃ。ねーネオンちゃん?」
うんうんとネオンは強く頷く。
「そんな事を言われても、無いものは無い」
対してシキも首を強く横に振った。
「もーしょうがないな~。ここはわたしが立て替えておくから、ほら先に行くよっ♪」
そういうとアイヴィはネオンと共に歩き出す。
「全く、強引な奴らめ……」
意見など聞く耳はないらしい。
シキはため息をつき、先行く二人の背中を追いかけた。
────────────────────
シキは二人を追い、商店街の中にある飲食店の前まで来ていた。
「…………正気か?」
店の外観を見て、シキは固まる。
「シキくん早くー!」
店の入り口でアイヴィが呼んでいた。
言われるがままに店内へ入っていく。そのまま三人は持ち帰りで注文し、食べ物の入った紙袋を抱えて店から出てきた。
……。
…………。
「またサンドイッチではないか!!」
昨日もそのまた前日も訪れたサンドイッチ店の前で、シキは絶叫する。
あまりの大声に『期間限定! 超ジューシー肉厚サンドイッチ!!』と書かれた看板もガタガタと音を立てて揺れていた。
「もしかして……嫌いだった?」
アイヴィとネオンは不思議そうに騒ぎ立てるシキを見つめる。
「アイヴィ……お前こそサンドイッチは一昨日食べていたではないか。ほんの数日でもう忘れてしまったのか?」
「もちろん覚えているけどー、移動しながら食べられるものがいいなーって思ったから……ごめんね?」
申し訳なさそうにアイヴィはペコリと頭を下げる。
「な……。そういう事ならまぁ……仕方がない、か……」
もっともな理由を添えられ、強く言い過ぎたと感じたシキはもう一人のおかしい奴に話を振る。
「だがネオン、お前は今まで私と全く同じものを食べているのだから、少しは引き止めたりしたらどうだ? サンドイッチはこれで五回連続だぞ……!? そろそろ飽きが来ても……いい……んじゃない……か?」
シキは指を突き出し訴える。その先では、キョトンとした表情でサンドイッチを咥えたネオンが見つめていた。
「…………」
男は指を突き出したまま顔を俯ける。それを支える肩は、震えていた。
何を言ってももう無駄だ。
ネオンはサンドイッチが大好きなのか、それとも本当に腹に入ればそれでいいのか。彼女の反応から答えを探そうとしたが、なんだかもうどっちでもいいや。
考える事を諦めたシキは、指先からゆっくりと力が抜けるように腕を下げる。
「……行こう、次の場所へ」
話を進めるため、シキは全てを受け入れる事にした。
────────────────────
サンドイッチ店を離れた三人は、ドロップ物を換金するため冒険者ギルドに来ていた。
「えーっと、兄ちゃんはスライミョン三十匹、クロバッキー二十五匹、バブルスライミョンが十匹ね。スライミョンはそろそろ価値が下がるから、次は別の魔物でも狩りな。ほいよ、30000ゼノだ。確かめな」
「ああ、丁寧にどうも。……よし、きっちり30000ゼノ確認した。ではな」
シキは換金を終え、ギルドの扉へと歩いて行く。
「へーバブルスライミョンも狩ってたんだねー。毒持ってて手ごわいのにさー、やるじゃんこのこの~!」
横腹を小突かれ、うっかりゼノを落としそうになったシキは怒りを露わにする。
「うわっ、やめろアイヴィ! 鬱陶しい絡み方をしよって……全く」
面倒くさい顔をしながら、ウザ絡みをするアイヴィを振り払う。
その後、シキは換金した金から10000ゼノ分の紙幣を手に取り、アイヴィへと手渡した。
「やはりこれは受け取ってくれ。このまま受け入れるのはどうしても私の気が済まない」
「えーもういいって言ってるのに」
「なら勉強代でも何でもいい、やると言ってるのだからつべこべ言わず黙って受け取れ」
「もー強情なんだか律儀なんだか分かんないなぁ君は」
やいやい言いながら二人はギルドから出る。そして外でサンドイッチを食べながら待っていたネオンと合流した。
「それで、この後の予定は空いてるかい? 新しい情報も手に入ったし、早速通り魔を捕えに行きたいんだけど大丈夫かな?」
「ああ、問題ない。だがその前に道具屋へ寄ってもいいか? 少しつかいを頼まれていてな」
「いいよー。わたしも買いたい物あったんだ。ちょうど向かいにお店もあるし、さぁレッツゴー!」
アイヴィは拳を上げいつものように先導する。
病み上がりとは思えないテンションに押され、シキは変な笑いが漏れていた。
「その元気はどこから湧いてくるのか……。ネオン、お前も行くぞ」
後ろを振り返り、もう一人の同行者を呼ぶ。
そこでは、空っぽになった紙袋を覗き込んでいるネオンの姿があった。
「……まさか、まだ足りないと言うのか?」
こくこくとネオンは同意する。
「どれだけ食べる気だ……全く。また後に買ってやるから、ほら行くぞ」
こくりと軽く頷き、ネオンはシキの元へと歩いて行く。
若干不服そうなネオンを無視して、シキはそのまま先に行ったアイヴィを追いかけた。
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