313 止められない③

 パーティー会場は野外区にあるレッドベア家の別荘だ。根っこの橋を渡った先に馬車が列を成して停まっており、執事が招待状を確認して各組を案内している。

 リンとヨワも前の参加者にならって招待状を見せ、つつがなく馬車へ乗り込んだ。まるで王族気分だ。リンは自分も四大名家であることを忘れて、優雅なもてなしに感心する。ヨワは会場に並ぶ料理のことを話していた。とっさに思いついたごまかしだったが、だんだんと本当に空腹を覚えてきた。

 だがリンの脳裏に浮かんだのはまだ見ぬごちそうではなかった。


「ヨワのからあげ食べたいな」

「い、今それ? だってレッドベア家のパーティーだよ。一流シェフが作った料理に決まってる」

「そりゃうまいんだろうけど。あのからあげが本当にうまかった」

「今度はハンバーグを作ろうと思ってる、けど」

「マジか! やった!」


 思わず大きな声で喜んだ。ヨワは視線を下げて、リンはお手軽だなあと言う。


「ヨワはお嬢様育ちだもんな」


 ホワイトピジョンの両親と別居していたとはいえ、用意される食事は変わらず一流のものだったろう。しかしヨワは唇を引き結んで首を横に振った。


「オシャマさんの料理と、みんなで食べる料理のほうが百倍おいしいよ」


 リンはやさしく笑って、ヨワの髪が崩れないようにそっと触れた。


「俺もおんなじ。ヨワが作ってくれた料理だからおいしいんだ」


 瞬きひとつでヨワの目が潤む。その熱い粘度でリンを絡め引き寄せる。今になって彼女の唇に桃色の紅が差してあることに気づく。近づいたら甘くかぐわしいにおいがしそうだ。

 気づけばリンの手は輪郭をたどってヨワのあごに添えていた。腰が浮き上がる。上体が傾く。もう止められない。

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