311 止められない①

「あの、お疲れさまです……」


 ふたりにかけるべき言葉をなくして、ヨワはそれだけ言ってそそくさと騎士の詰所から出てきた。

 そしてその足でフラーメン大学に飛んでいく。夕食の炊き出し当番を外れて、スサビとのんびりファッション雑誌を見ていたユカシイの前に仁王立ちした。


「私やるよ! イチャラブで一石二鳥作戦!」


 ネーミング古いね、とスサビは欠伸をしながらページをめくった。




 一段と寒さが厳しくなった二月。リンは風に身を震わせながら、崩れた南門でヨワを待っていた。

 えんじ色の外套の下は慣れない騎士の礼服だった。白い上等な生地に、そで口から肩にかけてふんだんに金刺繍があしらわれ、肩章と詰襟には名のある細工師による金装飾が施されている。国の式典だけでなく、個人のパーティーでも申し分ない豪奢さだ。だがどこか一ヶ所でも糸をほつれさせたらと思うと、着ているだけで肩が凝ってくる。

 懐に入れたキラボシからの招待状を確かめながら、リンはヨワが早く来ないかなと白い息をついた。


「リーン!」

「え、ヨワ?」


 そこへちょうどよく待ち人の声がすれども姿が見えない。浮遊の魔法で宙に浮いた根っこ道をきょろきょろ見回していると、上から人が降ってきた。


「ごめん。お待たせ」


 裾をふわりと舞い踊らせ、目の前に降り立った人はヨワだった。


「どこから降ってきた!」

「お城から。部屋とかお化粧道具とか貸してもらって、そこで準備してたの。時間なくなったから飛んできちゃった」


 魔力の名残か、ふわひら踊る裾を大人しくさせてリンは内心でうなった。

 そこでヨワの服装に見覚えがあるなと気づく。品のある深い青と白い紋様の色だけを変えれば、それはヨワが普段着にしているフラーメン大学のローブだ。

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