267 信じてるよ③
「ユカシイだってヨワの希望じゃないのか」
「当然だわ」わざとらしく髪を払ってユカシイは堂々と胸を張った。「先輩が今生きているのがその証拠。あたしが今ここにいるようにね」
どんなに時間が流れてもこの親友には敵わない。リンは早々に降参の苦笑いを浮かべて、後ろで聞き耳を立てているシジマとエンジを振り返り目を細めた。
すでに日は落ちた。今夜が満月だったことは幸いだ。森林限界を抜けた小石の道を月明かりは驚くほどよく照らしてくれている。リンは時折転がっている拳大の石に注意していた目を上げた。
そろそろダゲンの山小屋に着いてもいい頃だ。鼻頭に溜まった汗を拭い、胸をあえがせ息を大きくつく。前回来た時よりも山小屋までの道のりが遠く感じた。騎士として体力に自信のあるリンはダゲンの手伝いで薪割りを頼まれた時も今ほど疲れてはいなかった。やはりどんなに押し込めても逸る気持ちが知らず知らず歩みに伝わっていたのだろう。後ろから聞こえるロハ先生とエンジとシジマの息づかいも、前から流れてくるユカシイのそれも一様に苦しそうだった。
このままクリスタルの洞窟まで行く猶予はあるのだろうか。リンが頭の中で残りの距離を計算しはじめた時、ユカシイが前方を指さして明るい声を上げた。
「見えた! ダゲンさんの山小屋よ!」
から元気を振り絞って駆け出すユカシイにリンもつづく。「若いねえ」とぼやいたシジマの声は幾分か老けたようだった。しかしリンは不意に胸騒ぎを感じた。なにか重大なことを見落としているような気がする。
ユカシイを呼び止めようと思ったが、彼女はもう小屋のドアノブに手をかけていた。
「ダゲンさーん! あたしです、ユカシイです」
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