228 ダブルロード④

 資料置き場に着くなりユカシイが切り出した。ヨワはなんと言えばいいか考えながら窓を開けた。日陰になっている小部屋は風が通るだけで幾分か涼しく感じられた。


「ゾオ・ブランチさんに私はダブルロードじゃないかって言われたの。私、今まで浮遊の魔法以外使ったことはないんだけど、確かにダブルロードの彼と競るくらい魔力が高いようだから気になって……」

「その可能性はあるな。ヨワはふたつの家の間で生まれたんだから。もしもうひとつの魔法の種類がわかれば、父親に確信が持てる」


 リンの言葉にヨワは深くうなずいた。


「無意識に使ってたってことはないのかな。ヨワさんの周りで不思議なことが起こったりしなかった?」


 スサビの投げかけに真っ先に反応したのはユカシイだった。


「先輩、時々誰かと会話してた」

「えっ。そんなこと、全然覚えてないよ」

「先輩はあたしと話してるつもりだったから。でもあたしなにも言ってなかったのに急に先輩が『そうだよ』とか返事してて……。幽霊とかだったらどうしよと思って怖くててきとうに話し合わせてました。すみません」

「それって、なにかと話しができる魔法?」


 首をひねるスサビの横でリンは真っ直ぐにヨワを見つめていた。彼が次に口にした言葉はやけに確信を帯びていた。


「なにかの、声が聞こえる魔法」


 ヨワの全身が震え出した。それと同時にこれまで何度か聞いた子どものような声を思い出した。カカペト山でユカシイの危機を知らせた声も、バナードに眠らされたヨワを起こした声も、誰かの魔法ではなく自分の魔法だったとしたらヨワはひとつだけ類似した魔法を扱う一族を知っている。


「なにかって植物の声!? まさか!」

「違う! そんなはずない! そんなことあるわけない!」


 体を支配する得体の知れない恐怖にヨワは思わずユカシイの声を遮った。

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