220 スタンバイ②
彼の名前が呼ばれた瞬間、沸き上がった歓声は突風となって衝撃を感じるほどだった。両手を高々と掲げ、堂々と壇上に登場したゾオ・ブランチは一般参加者ひとりひとりと握手を交わしていった。ヨワの目の前にもやって来た彼はなんのためらいもなく手をさらって力強く握り締め、ほのかな温もりを残して去っていく。染めているのか鮮やかなオレンジ色のゆるくウェーブがかった髪がさっそうと揺れて、彼自身が夏風のようだった。
司会の紹介、そして会場の盛り上がり方を見ても、彼がコリコ国出身のプロレーサーであることは間違いなかった。最後に自分の立ち位置に戻ったゾオが再び手を挙げると観客は熱狂的な声で応えた。
「ゾオは主にシングルスで活躍している選手だが、今回は特別にコリコファンのためにダブルスのエキシビションマッチに参加してくれた。ありがとうゾオ!」
彼にパートナーがいないのはそういうことかとヨワは納得した。プロからしてみればダブルス相手にシングルスで挑むくらいがちょうどいいハンデということだ。それにしても爆発力が必要な帆と繊細なコントロールを要求される舵をひとりでこなしてしまうなんて、どんな練習をすればできるようになるのだろうか。ヨワには想像もつかなかった。
「そして最後のペアはもちろん王族のこの方々! スオウ王とススドイ大臣ー!」
警護の騎士をともない現れたふたりの王族に送られた歓声もすさまじいものだった。すでに一般参加者に紛れて王族がひとり出ているというのに、会場のほとんどの観客がプロレーサーのゾオとスオウ王とススドイ大臣を目当てにしている。ヨワやススタケは見向きもされていない。そのことにかえって安心を覚え、紹介で高まっていた緊張がゆるんだ。
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