219 スタンバイ①

 ヨワとてユカシイからもらったかわいいという名の鎧を身につけているのだ。ちょっと気取って胸を張った。


「そうでしょ。リンもなかなかかっこいいじゃない。今日は負けないからね」

「望むところだ」


 リンは軽く拳を突き出した。なんだろうと思って見ているばかりのヨワに「ほら、お前も」と声がかかる。見よう見まねで拳を差し出すとこつんと触れ合った。にかりと笑ったリンの顔になんだかヨワも楽しくなってくる。

 拳を合わせるのは握手のようなあいさつであり、ハイタッチのように互いを称え合う合図だと知った。騎士とその護衛対象の延長線上にある友人関係。近いようで遠いリンの立つ場所に並べた気がしてヨワは拳を胸にはにかんだ。


「ヨワさん、いよいよですね。リラックスしてがんばりましょう」


 橋の手前でヨワとリンはススタケとシオサイのふたりと合流した。シオサイは明るく声をかけてきたが笑みは固く強張っていた。


「今年はやっぱり兄貴たちが出るってよ。負けず嫌いで大人げないからなにをしかけてくるかわかったもんじゃない。まったく」


 呆れた口調でススタケは言うが、彼がボードレースに出た理由もシオサイへの対抗心だった。やはり兄弟。よく似ている。

 司会の進行によって開会式は予定通りレーサーの紹介に移った。まず一般参加者の六組がペアごとに呼ばれて壇上へ上がる。リンとススタケが上がった時は野太い歓声が目立ち、誰かしらと目を凝らすと庭番の仲間だった。

 次にヨワとシオサイが呼ばれると女性の雄叫びが響いた。誰と確認するまでもない。オシャマだ。旗まで振って応援しているのは彼女たちだけで遠くからでもひと目でわかった。ヨワはひかえめに手を振って応えた。


「さあ。次はお待ちかね。エキシビションマッチをともに盛り上げてくれるスペシャルゲストの登場だ。コリコカップでは負けなし! 我らが誇る波乗りの貴公子! ゾオ・ブランチー!」

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