215 あなたと波に乗る③

 リンが調子よく歓声を上げた。ヨワもまねをして声を出してみたが風の音とぶつかって思ったほど響かなかった。声が目立たない。それに気をよくしてヨワは生まれてはじめて腹の底から思いきり叫び声を上げた。

 カーブが迫ってきた。ヨワはリンを呼び、彼は片手を挙げて応えた。対岸が近づいてくると無意識に速度が落ちていた。いけない。中途半端な速度はかえって危険だと自分を奮い立たせて魔力を込め直した。もうすぐだ。

 ヨワが今だと思った絶好の瞬間にリンは舵を切った。ボードが傾き、あっという間に水面から離れそうになるところをヨワは重心を操作して耐えた。後ろからついてきていた白波が横に回って大きく跳ね、虹がかかった。しかし次の瞬間、視界が大きくぶれてボードの回転が止まらなくなったかと思うと空中に投げ出されていた。

 水に落ちた衝撃でヨワは失敗したんだと気づいた。重心を重く乗せ過ぎた。ある程度は流れに身を任せる度胸が必要だ。それとバランスを取ることに夢中になり速度が落ちてしまった。進行方向を変えた直後に思いきりスピードを上げるべきだった。

 水面に向かってぽこぽこと形を変えながら昇っていく泡を見つめて、ヨワはぼんやりとそんなことを考えていた。すると降り注ぐ陽光を掻き分けて影が現れヨワに手を伸ばした。こんな光景を前にも見たことがある。ふわふわとした既視感に抱かれてヨワの体は浮上した。


「ヨワ! ヨワ! だいじょうぶか!」


 顔に張りつくヨワの髪を指先で払って必死な形相をしたリンが覗き込んできた。ヨワはぱちくりと瞬きした。そんなに心配するほどのことではない。そう思ったがリンがなにを思い出しているのか理解した。バナードに襲われた時もおぼれるヨワを助けてくれたのはリンだったとススタケが言っていた。

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