160 ネコを追って③
浮遊の魔法を使って水路を上ったヨワをシジマの厳しい声が非難した。ちょっぴりの罪悪感は大げさに騒ぐ護衛への反発心によって打ち消え、ヨワは快感さえ得た。
根っこの影に身を寄せてヨワはソゾロを探した。そこは民家の裏手でちょっとした庭になっていた。目の前には青い屋根の家がある。窓が六つあり煙突が二本立っている。豪邸と呼ぶにはややひかえめだが、歴史を感じる立派な屋敷だ。
二階の窓から子どもが顔を出した。男の子だ。とたんにどこからかソゾロの鳴き声がする。男の子の顔を見た瞬間ヨワは声を上げそうになった。それはユンデだった。ユンデをそのまま小学校低学年の年頃まで小さくした風貌の男の子だった。これまでの子どもっぽい彼の発言にすべて納得した。異性に好意を寄せられてもうんともすんとも揺らがなかった自分の心は正しく機能していたのだ。
二階から下りてきたユンデは庭に出ると危なっかしい手つきでソゾロを抱き上げた。
「お前また外に出てたのか」
無邪気な笑い声が響き渡る。ネコになろうという思いつきもきっとそんな心が生んだのだろう。ユンデにとってソゾロが最も身近で変身しやすい相手だったのだ。変身が成功すればその姿で町を歩きたくなる。人に正体がばれないか試したくなる。そしてソゾロになりきってネコの生活を満喫していく内にヨワの元へ辿り着いた。
ネコ用のエサではなく人間も飲めるはちみつミルクを出したことが気に入ったのだろうか。つい吐き出したヨワの弱音は子どものユンデにどう聞こえたのだろう。それが青年の姿になって現れたはじまりだったのか。
同情から。仲間意識から。
「まあソゾロ、帰ってきたのね。おかえり」
「ママ!」
ユンデの肩に手をそえて、後ろからそっと顔を覗かせた母に男の子は飛びついた。すると母の手が脇をくすぐり、ユンデは身をよじってきゃたきゃたと笑い声を振りまく。
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