149 お祭りデート③


 あとでと言ったがユンデは食事のあとという意味で言ったわけではなかった。ユンデは再び出店巡りにヨワを連れ出した。東区ももちろんにぎわっているはずだが、ユンデは迷わず西区行きのフラココ乗り場へ向かった。まるでヨワが東区に行きたくないことを知っているようだった。

 西区では湖に張り出した舞台で異国の貸衣装を着た人々が異国の音楽に合わせて踊っていた。ユンデに誘われたがヨワは断った。おしゃれはユカシイに見繕ってもらった今日の服で精一杯。ひらひら舞うドレスなど気恥ずかしい。

 するとユンデは突然ヨワの手を引っ張った。飛び込んだ輪はコリコの伝統的な音楽とダンスに興じる人々だった。これは小学校で誰もが習う。忘れかけていた旋律とダンスがユンデのリードに呼び覚まされ、ヨワの足はおずおずとステップを踏んだ。

 北区からは装飾品や衣服、雑貨の出店が並んでいた。ユンデは流し見していたがヨワは興味津々だった。寄ってみたい店がいくつかあったが明らかに反応の薄いユンデを思うと足を止めてじっくり見ることは憚れる。

 しかし一軒だけヨワが思わず立ち止まった店があった。若い男性の店員は大きな声でこう紹介していた。


「あなたの大切なものを永久に保存しませんか。氷の魔法であなたの大切な絵、思い出の品、風化させたくない手紙などを現在の状態のまま保存できます。一度魔法をかければいいんです。それがたったの五〇〇ヒラン! 氷の魔法使いがいる今がチャンスですよ」


 若い男性のかたわらでは女性が接客していた。ふたりはそろいの服を着ている。夫婦かもしれない。

 女性が客から預かった手紙に手をかざすと、ほのかに青い光が生まれた。手紙にこれといった変化は見られなかったが、受け取った客は「ひんやりするわ」と驚く。

 女性店員の前には短くはない列ができあがっていた。

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