147 お祭りデート①
「ヨワ、どうかした?」
向かいに座るユンデがパーマ頭をふわり揺らしてようやく顔を上げた。彼はハンバーグのつけ合わせに出てきた穀物のサラダが気に入らなくて、小さなまあるい粒状のそれをひとつひとつ取り除くことに躍起になっていた。
「なんでもない」
ヨワは黒髪の騎士がもたらした微笑みのままそのつけ合わせを口に運んだ。確かに少し癖のある穀物だった。口に入れた瞬間にハーブのような薬っぽい香りが広がる。ぷにぷにとした食感は舌を楽しませるが好き嫌いが分かれそうな味だ。好きになれるかは置いておき、ヨワは珍しさからつけ合わせをすべて平らげた。はじめて口にする料理だった。さすがはコリコ祭り。世界の広さを教えてくれる。
「ヨワよく食べれるね」
「そこまで嫌いな味じゃないよ」
「僕はもういいかな」
料理の味や満腹具合からではなく、ユンデはつけ合わせと格闘することに疲れた様子でフォークを置いた。目はまだなにかを欲するように皿に注がれている。
「じゃあデザートにしようか」
そのひとことでユンデは笑顔になった。本当にわかりやすい。テラス席へ来る前にヨワとユンデは二時間ほど歩き回り出店を覗いたのだが、彼が反応するのは決まって甘いお菓子を売っている店だった。ユンデはあくまでヨワのエスコートを努めて自分の欲望のままにお菓子を買うことはしなかったが、目が食べたいと訴えていた。
それを察してヨワが食後にパフェを頼むと案の定、ユンデは足を打ち鳴らしテーブルを叩いて喜んだ。
「私はもうけっこうお腹いっぱいだから、ユンデが好きなだけ食べていいよ」
「本当? ありがとう!」
ウエイトレスが下げた皿の替わりに、花瓶を思わせる大きな器に盛りつけたパフェを運んできてヨワはユンデに差し出した。長いスプーンを受け取ったユンデはさっそく生クリームの頂きを崩しにかかる。バニラアイスと絡めてそれを口に入れたユンデは幸せそうに笑った。
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