146 もだもだリン⑥
度々リンを突き放すヨワの言動に戸惑い悩んだが、不安定な心はかつての自分を見ているようだった。シジマの言うことは確かだと思ったのだ。
「そう。放っておけない。ヨワがなにかを諦めようとすると俺は、どうにかしてやりたくて仕方なくなるんだ」
「なんだかただの世話焼き幼馴染みみたいだけど」ユカシイがぼやく。
「おい。俺今けっこういいこと言ったぞ」
「リン兄自分で言ったら台無しだよ」
リンとユカシイとスサビは顔を見合わせて笑った。
「はっはー。仲よしなのはいいことだがリン、お前なにサボってるんだ」
突然シジマの顔が目の前に現れてリンは飛び上がり、看板に頭突きを食らわせた。痛みにうずくまるリンに、シジマの笑い声が降りかかる。
自分だってオシャマに会いに行っていたくせに、とはすんでのところで飲み込んだ。
心残りはあるが、任務は放り出せない。ヨワの護衛がスサビからシジマに替わるところを見届けて、リンは戻ることにした。その際にもう一度、テラス席を振り返る。
まだそれほど時が経っていないのに、ヨワの護衛に復帰したいとは格好が悪かった。今日はブラックボア家の中でも一、二を争う魔剣使いがそばについている。自分よりよほど安心だ。
「ん?」
歩き出したリンの頭になにかがぶつかった。見るとコリコの白い花が、八枚の花弁をきれいにつけたまま落ちていた。珍しい。コリコの花の散り方は、花弁がひとつひとつほどけていくものだ。これほどきれいな状態の花ははじめて見る。
リンはなんとなくその白い花を拾い上げた。
なにかがぶつかる鈍い音がしてヨワはメニュー表を掲げる看板に目を向けた。憮然と立っていたユカシイが消えている。ようやく去ってくれたのかとあたりを見ていると、頭を押さえたリンが看板裏から出てきた。鈍い音はリンが看板に頭をぶつけたものだったのだと察してヨワは笑みを湛えた。
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