128 ホワイトピジョンの務め④
ロハ先生がヨワの魔法のことをススタケに話さなかったのはきっと彼のやさしさだ。浮遊の魔法使いならばなぜ務めを果たさないのかという話になる。するとヨワと両親の間にある確執やヨワの痛みを帯びる過去に触れざるを得ない。ロハ先生はあえてそっとしておいてくれたのだ。
謁見の間でヨワに事情を話したロハ先生の姿を思い浮かべた。先生はあの時とても申し訳なさそうな顔をしていた。ともすれば痛みを堪える表情に似ていた。心を痛めてくれたのだろうか。血のつながりもない、突然受け入れることになった鉱物学に興味もない赤の子を、案じてくれたのだろうか。
「せっかくここまで来たんだ。ヨワ、クリスタルに浮遊の魔法を注いでやってくれ」
「え、うん。どうすればいいの?」
普段の魔法をかける要領と同じだ、と言われヨワはクリスタルに向けて魔法をかけた。ところがいつも感じる手応えがまったくない。クリスタルは一際強く輝きを放つばかりで揺れ動きもしなかった。どんなに力を込めてみてもするりとかわされているようだった。
これが魔法を吸収される感覚だ。ヨワは少し恐怖を抱いた。際限が見えない。ヨワの魔力を根こそぎ奪ったとしてもクリスタルは満足しない。まるで底なしの闇だ。
ヨワは止め時がわからなくなってしまいススタケに手を押さえられてようやく放出する魔力を止めることができた。今まで感じたことのない倦怠が体にまとわりついていた。
「慣れるまでは十まで数えて止めるといいぞ。気が向いた時に来るといい」
背中を支えてくれるススタケの手をありがたく感じながらヨワは首をひねった。
「そんな頻度でいいの?」
「ああ。ホワイトピジョン家の連中が交替で毎日夜〇時きっかりに来るからだいじょうぶだ」
夜〇時の訪問はなにがあっても避けようとヨワは心に刻んだ。
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