122 秘密の庭②
ヨワの目の前に大きな手が差し伸べられた。見上げるとススタケが立っていた。低い天井を抜けたのだと知り、ヨワはその手を掴む。周りを見て「あれ?」とつぶやいた。
「ようこそ庭番へ。ホワイトピジョンのお嬢さん!」
ススタケの手にふわりと引き上げられて見たそこはダンスパーティでも開けそうなほどの広間だった。天井ははるか上にあり三角形に伸びている。壁は風になびく織物のように曲線を描いて波打っていた。ここは緑だけでなく白い光を放つランタンもあり、交互に壁をぐるりと一周している。そのお陰で床の模様がはっきりと見えた。
年輪だ。それも途方もないほどの時を刻んでいる。ここがまだコリコ国の中ならこれほどの樹齢を重ねている樹をヨワはひとつしか知らない。しかしそれは驚くべき事実だ。凍りつくほどに。
「ここはコリコの樹の中?」
ススタケは「そうだ」と明るい声で応えた。
「あなたはコリコの樹に穴をあけたの……? 中をくり貫いてこんな好き勝手なことをしたの?」
振り返り見たススタケの顔からは笑みが消えていた。
「確かにできることならしたくはなかった。でもコリコの樹は巨大過ぎて、外からじゃどうしようもなかったんだ」
「どういうこと?」
「俺たち庭番はコリコの樹を守り、世話をするのが仕事だ。虫を駆除し、弱ったところを取り除いて、然るべき時に栄養を与える」
腰に手を当て天井を見上げたススタケは、まるでコリコの樹に語りかけるような口調だった。
「こいつはとんでもなく老体で、あちこちにガタがきている。もう中から処置する他に手がなかった」
「そうだったんだ」
なにも知らず、ススタケにきつく当たってしまったことをヨワは反省した。庭番の存在も、コリコの樹が弱っていることも、まったく気づかなかった。
いや、おそらくスオウ王とススドイ大臣が庭番のススタケと協力して、民には必死に伏せてきたのだろう。
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