87 座礁船④
動き出した船の上からヨワが見たものは山ほど大きな貨物船だ。諸国を巡り、各地にコリコ国の輸出品を届けながら各国からの輸入品を集めてきた特大級の帆船だ。
まさかあれじゃないよね、というヨワの思いとは裏腹に漁船はまっすぐ貨物船に向かっていく。この船とて中型くらいの大きさだが、モンスター並みの超大型船を前にすれば池に浮かべるおもちゃの舟と変わらない。貨物船の影にすっぽりと入って下から見上げれば、船のへりに白い上着を振り回している青年がいた。
「うえ~んっ。すみません! 魔法使いさん助けてくださあい!」
クロシオから紹介されなくともわかった。彼が新米の水先案内人だ。その横の帽子をかぶっている男は船長か。彼らより少し離れたところから船員たちがぞろぞろと顔を突き出して、明らかに漁師ではないヨワを見物していた。
ヨワはぐっとフードを深くかぶり直した。
「クロシオさん。船員に今すぐ帆をたたむように言ってください。そのあとはどこかに掴まっているようにと」
「やれそうか!」
クロシオはうれしそうに破顔した。彼が座礁したのは貨物船だと言わなかったのはヨワを引っ張り出すための策か、うっかりか。わかりかねるが恨めしい目を向けると怯んだ。案外前者かもしれない。ヨワは深くため息をついた。
「私だってわかりませんよ。やれるだけやってみます」
わかった、とうなずいてクロシオは船室に走り、メガホンを片手にヨワの指示を船上に伝えた。船長の号令でバタバタと動き出す船員たちのかけ声、足音。涙混じりに謝りつづける水先案内人の声。それらを聞きながらヨワは漁船の先に立ち、目を閉じた。
周りの喧騒が遠のき波の音が近づく。海のほうから吹く風がヨワのフードをぱたぱたと揺らした。ヨワはそれをもっと感じられるように両手をゆっくりと広げた。にわかに海風が吹き渡る。波音が跳ねる。
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