77 リンの秘密①

 青い大剣が宙を舞っていた。剣を両手で握り締めたリンが床を蹴り大剣に向かっていく。キィンと打ち鳴る衝突音。リンは息を弾ませ汗を散らし、怯まず二撃目を叩き込む。相手をしているシジマは両腕を組んで見守っていた。

 シジマの涼しい横顔を見てヨワは誰が大剣を操っているのかすぐに理解できなかった。これがブラックボア家に受け継がれる魔剣の魔法なのだ。使い手は自在に魔剣を喚び出し意のままにそれを操る。

 コリコ騎士団の評判が海を渡る理由が目の前にあった。

 意思ひとつで剣を振る相手にどうやって立ち向かえばいい。体力を消耗するばかりのリンが一方的に押し負けるに違いない。ヨワがそう思った時、リンの呼吸が深まった。

 リンは上段の構えから一気に深く踏み込んだ。その攻撃をシジマは大剣を横にして難なく防ぐ。しばらく力の競り合いになる。だがシジマが徐々に押しはじめた。その巨躯でリンを押し潰さんとばかりに迫った。

 その近づいた距離をリンは見逃さなかった。身を屈め素早くシジマの懐に入り込んだリンの剣が、迷いなく一閃を描く。

 ヨワはハッと息を呑んだ。魔剣はもちろんリンが手にしている剣も木製ではないのだ。かすめただけでどちらも怪我をする。だがシジマは寸でのところで身を引いていた。構えが崩れ、魔剣の操作に一瞬の隙が生じる。リンは鋭くたたみかけた。

 リンが勝った。ヨワはそう思った。ところがシジマの豪腕が目にも留まらぬ速さで大剣を掴み、リンの攻撃を防いだ。キィンと高鳴る打ち合いの音色。


「とうとう手を使わされてしまったな」


 シジマはうれしそうに笑って構えを解いた。リンは荒い呼吸をくり返しながらゆっくりと剣を下げた。息苦しそうにうつむき、滴り落ちる汗を拭っていた。


「やはり少し体力は落ちたが剣技は衰えてないな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る