68 本当の理由③
身内だけでひっそりとおこなわれたというルルの葬儀をヨワは新聞記事で知った。家族に、家族と思われていない事実を改めて突きつけられた一連のできごとは、ルルの死亡とともにヨワの心奥深くにふたをして閉じ込められた。
このふたを開けることは苦痛を伴う。ヨワは拳を握り締めた。
「どうしてリンは私の護衛をしているの」
「ヨワには、混乱を与えないように黙っていた」
リンはまっすぐにヨワと向き合った。
「ルル・ホワイトピジョンからわずかに睡眠薬が検出された。彼女はヨワの言う通り落ちてなんかいない。誰かに眠らされ殺されたんだ」
リンはわずかに目を伏せてつづけた。
「愉快犯か、名家に恨みを持つ者の可能性も捨てきれないが、犯人が次に狙うのはヨワ。お前の可能性もあるんだ」
頭が真っ白になったあとヨワの中にあったのは
「そっか」
存外、軽い声が出た。一度空になったヨワの心にぽつんとひとつの感情がようやく生まれた。それは――
「なんでそんな軽く言うんだ」
「だって、私が死んでも悲しむ家族なんていないもの」
諦め。ヨワはやっぱり堪えきれなくなって小さく笑った。足元にすり寄ってきたネコをなでてやりながら思う。このネコも今目の前でヨワが死んだとしてもなにも感じないだろう。ユカシイとロハ先生はやさしいから心を痛めるかもしれない。それはそれでありがたいし、申し訳なく思う。だけどヨワが本当に見たい涙はきっと流れない。そんなことをまだ心の隅で願っている自分が滑稽だ。
「なに笑ってんだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます