67 本当の理由②

 飼い主がいるにも関わらず高い頻度ではちみつ入りミルクを飲みにやってくるネコをリンが抱え上げた。二週間と四日前からヨワの護衛として居座るリンとも顔馴染みだ。

 人慣れしているネコはヨワがはじめて出会った時からいくら触っても機嫌を損ねることはなかったのだが、リンには時々噛みついたり牙を剥いて威嚇したりすることがある。それもネコ特有の気まぐれで昨日は引っ掻いた腕に今日は大人しく抱かれているのだ。

 これがツンデレか。

 前にユカシイから教わった異性を魅了する高度技術の名前がヨワの脳裏に浮かんだものだ。お蔭でその技術は大いに効果ありとヨワの心のメモに刻まれている。なんせリンは引っ掻かれてもへらへら笑っていた。

 今日はツンデレのデレの日のようだ。ネコは機嫌がよさそうにしっぽをくゆらせて大人しくリンの腕に収まっている。「ミルクはあったかな」と微笑むリンの顔に、クリスタルの洞窟前で厳しい声と強く引き止められた感触を思い出した。

 どうして今なのかヨワにもわからない。だがそれはずっと考えていた違和感と結びつく記憶だと察した。そしてヨワは思いついた。


「嘘でしょ」


 資料室の扉を開けようとしていたリンがきょとんとした顔で振り返った。その間もヨワの唐突な思いつきはどんどん確信に変わっていった。


「ルルが誤って転落したなんて嘘」


 リンの腕から力が抜けてネコがひらりと床に下りた。


「ひとり歩きを覚える前に宙を舞う。それがホワイトピジョン家だもの。ルルがたとえ足を滑らせたとしても“落ちる”なんてあり得ない」


 リンは暗い表情で視線を落とした。その仕草はヨワの確信を肯定するも同然だった。ヨワの中に次々と疑問が湧き起こる。なぜ真実を隠していたのか。どうして義妹のルルは死んだのか。

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