63 騎士バカ②
「本当にすまない。それと、ありがとうヨワ。九死に一生を得たよ」
ロハ先生は改めてヨワとバナードの無事を確認すると自ら先頭に立ち、すぐにバナードを補助できるよう後ろにつかせた。
ならばバナードの後ろは自分かリンがいいだろうとヨワは思ったが、リンはまったく動かなかった。それなら、とヨワが歩き出そうとするとひじを掴まれ止められる。
「お前は俺の前を歩け」
振り返ったヨワにリンはそう低くささやいた。仕方なくユカシイに先に行ってもらい、ヨワとリンはそのあとにつづいた。
だが気のせいではなく後ろからの視線を鋭く感じる。ヨワはむすりとした黒髪の騎士を振り返った。すると間髪入れず「ちゃんと前見て歩け」と注意され口を挟むこともできない。
話しづらいがヨワは前を向いたまま喋った。
「リン、なんか怒ってる? そりゃあなたは護衛だからさっきの件でピリピリするのもわかるけれど。でもあれはリンのせいじゃなくて事故だよ」
「俺は任務で事故だったなんて言い訳はしない」
その硬い声の返答はなんだかヨワをつまらなくさせた。護衛として同行すると言ったわりに、リンは終始山登りを楽しんでいた。この三日間で彼とは友人のような関係を築いてきたというのに、突然、堅物な騎士に戻られるとヨワはどうしていいかわからない。
「リンはまじめだね」
それきりダゲンの山小屋に着くまで、ヨワとリンの間に会話はなかった。
ヨワのもやもやとした気持ちは、ダゲンのアップルパイを見てどこかに吹き飛んだ。
さっそくユカシイの持ってきた紅茶といっしょに食べようとしたのだが、せっかく山の下から運んできたカスタードを忘れていたことに気づいた。落ち込むユカシイを見かねて、ダゲンはお土産用にもうひとつアップルパイを焼くと約束してくれた。
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