第3章 クリスタルの実

55 洞窟①

 日が昇り朝もやが薄まってきた頃を見計らってロハ先生、ヨワ、ユカシイ、リン、バナードは観察に必要な道具だけをリュックに詰めて山小屋から出発した。ひとり居残るダゲンにはリンが念入りに注意した。窓と扉はしっかり閉めておくこと。斧を常にそばに置いておくこと。若くても騎士であるリンの忠告にダゲンはひとつひとつうなずいて返した。

 見送りに斧を持った手を振るダゲンの姿は、置いていくことに心配を拭いきれなかったヨワたちを少し安心させた。彼は斧を持つ姿がよく似合う。

 先頭を行くロハ先生につづいて一行は山頂に繋がる道から東に逸れた。ほとんど垂直の壁といっても過言ではない斜面を、かすかに残った踏み跡を辿って歩く。斜面に打ちつけられた鎖が命綱だ。時折吹く強風は体だけでなく肝も冷やした。


「ヨワがいなかったらこんなところ何度も通りたいとは思わないよ」


 風に負けじと声を張り上げてロハ先生は言った。


「たとえ先輩の魔法があったって通りたいとは思わないわ!」


 ヨワの後ろからユカシイが噛みついた。風の強さを警戒してふたつに結ってきたレモン色の髪が踊っている。ヨワのフードも早々に吹き飛ばされてかぶり直すのは無意味だった。だけど今誰もがヨワの肌に注目している場合ではない。それに見られたとしても前はロハ先生、後ろはユカシイだ。ヨワは両手でしっかりと鎖を持ち直して一歩ずつ確実に前へ進んだ。

 ごろごろと突き出た岩を下りて、その影にひっそりとあいた穴に入っていく。入り口はかがむほど狭く、水が流れ出ていた。


「うわ。広いな」


 最後に穴をくぐったリンが呟いた。その声は黒い岩壁に反響して大きく聞こえた。見上げるほど天井は高くないが、一番背の高いリンでもまっすぐに立っていられる。岩壁の表面を水が伝い、上からも時々水滴が降ってくる。足元からはぴちゃぴちゃと水音が跳ねた。

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