52 秘密は夜の森に隠して①
その間、リンとダゲンは納屋にいる盗賊にピザを持っていってあげたらしい。縛られているふたりは、与えられるピザにひな鳥のように口をあけて、おいしいとかしましく鳴きながら平らげたそうだ。
ユカシイを襲った時も食べ物を寄越せと言っていたから、相当腹が減っていたのだろう。盗賊にしては殊勝に何度も礼を言っていた、とあとからリンが話してくれた。
ヨワとユカシイは楽しみにしていたカードゲームを広げたものの、登山と労働と盗賊の一件で溜まった疲労が出て、一戦も終わらない内にふたりとも舟をこいでいた。とても残念だったが、今夜も大人しく就寝することにした。
ところが、ヨワは寝袋に横たわろうとしたところで、竜鱗病のぬり薬をぬり忘れていたことに気づいた。昨夜に見た甘い夢のストレスで腕を掻いてしまったから、今薬をぬっておかないと明日には悪化しているだろう。
もうこのまま眠ってしまいたい誘惑をなんとか振りきって、ヨワはリュックから薬を取り出し、そっと座敷から出た。
玄関を出た脇にベンチがあったはずだ。そこで薬をぬろうと思ったヨワだが先客がいた。バナードだ。両手で輪を作り、それを絡めて目を閉じている。
コリコの樹に祈りを捧げているとわかった。〈ナチュラル〉の人々はこうして一日の終わりに、感謝と明日の幸福をコリコの樹がある方角に向けて祈る。この光景は城下町でもよく見られた。
バナードの邪魔をしては悪いと思い、ヨワは裏口から外へ出た。上空は快晴だ。月が出ているので満天の星とはいかないが、でもそのお陰で明かりがなくても手元がよく見える。
ヨワは積み上がった薪の前を通り、丸太に腰を下ろした。
貝の合わせを開き、乳白色のぬり薬を人さし指に取る。治癒魔法を代々受け継ぐレッドベア印の薬とは、もう古いつき合いだ。その効き目はヨワが身をもって知っている。
昼間に掻きむしってしまった患部に薬をぬり込めると、ふわりと花の香りが漂った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます