44 自給自足③

「ユカシイ!」


 ヨワは転がるように山を下りて座り込む後輩の名前を叫んだ。ユカシイは山菜を求めて下山したのか、ダゲンの小屋からだいぶ離れたところにいた。


「ヨワ先輩!」


 叫ぶユカシイの前に小汚ない男がふたり立ちはだかっていた。その手にナイフが光っている。ただならぬ不穏な空気にヨワは容赦なく男たちを魔法で突き飛ばした。


「この子になんの用ですか」


 ユカシイの前に踊り出て、できる限り冷たい声を男たちに突きつけた。さっとヨワの手に温もりが絡みつく。ユカシイが両手で握り締めていた。


「くそ。なんだ今の魔法は」

「もうひとりいたのか」


 うめき声をもらしながら立ち上がったふたり組の男は、土埃に汚れた服にも構わず冷たい目を向けるヨワを警戒してじりじりと後退っていく。ふとヨワの目に地面に埋まった巨岩が留まった。


「ずらかるぞ!」


 ヨワの視線が逸れたことを機に小汚ない男たちは背を向けて走り出した。その姿がヨワの琴線に盛大にぶつかった。


「は? 誰が見逃すって言ったの」


 地面から浮かび上がった巨岩は埋もれていた時より二倍も大きかった。ぱらぱらと土を振り落としながら逃げる男どもをその巨影で包む。事態に気づいた男たちの足が止まった。空を見上げた時にはもう遅い。あとは力を抜くだけだ。


「ユカシイに、ごめんなさいでしょ!」

「ぎゃああああ!?」


 重い地響きとともにカカペト山に震動が走った。大きくくぼんだ地面の横で小汚ない男たちは白目を剥いて気絶した。


「先輩、先輩。ううっ」


 ユカシイに腕を引かれて我に返ったヨワは、しゃがみ込んで怪我はないか調べた。いつになく泣き出しそうな声をこぼす後輩に心配が募る。やはり巨岩を落とすふりではなく、上からゆっくりじわじわと押し潰すべきだった。


「あたしの魔法、また効きませんでした」

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