22 つきまとうアレ①

「なに言ってるんだい。リンが部外者でないことはヨワが一番知ってるでしょ」


 冗談と受け取ったのかロハ先生は陽気に笑って「さあ出発だ」とコリコ国の南門をくぐった。

 ヨワは仕方なくそのあとにつづく。当然のようにリンがついてくる。その背にはヨワとユカシイに負けないくらい、まるっと肥えたリュックが背負われていた。どう考えてもこの三泊四日の登山に最後まで参加する気だ。

 こうなったら“あれ”は極力無視するしかない。ヨワはそう心に決めて軽く手を振り、自分とユカシイの荷物を背中から数センチ浮かべた。


「なあ。俺の荷物は魔法で運んでくれないのか」


 後ろから目ざとく見ていたらしいリンが、ヨワの決心をさっそく打ち砕かんとばかりに気安く声をかけてくる。ヨワは南橋の下をたゆたう湖の清らかな光に気を取られているふりをした。


「おーい。ヨ、ワ」


 名前を呼ばれると、さすがに耳がぴくりと反応してしまった。ヨワは隣のユカシイになにか話しかける種はなかったかと、急いで頭の中を掻き回した。


「ヨッワ。ヨッワ」


 後ろの“あれ”は妙な呼び方をはじめた。

 うるさい。気が散る。

 これはやむを得ず決意を曲げてでも、黙らせる必要があるかと拳を握った時、ユカシイが勢いよくリンを振り返った。


「ちょっと! 先輩の名前を変な節つけて呼ばないでくれる?」


 ヨワは心の中でユカシイに向けて親指を高々と立てた。


「あー、えっと、あんたは確か謁見の間にいたよな」

「ヨワ先輩の中学時代からの後輩、ユカシイ・ルートよ」

「ユカシイか。俺のことはリンって呼んでくれ。よろしく」


 リンが差し出した手をユカシイは腕を組むことで拒否した。


「あなたなんなの。最初に女なんかとよろしくするつもりはないって言ったのそっちでしょ。それなのにどうしてこの二週間、先輩につきまとっているのよ」

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