第2章 カカペト山
20 楽しいのは先生だけ①
「えー。鉱物学研究室のみなさん。楽しい山登りの日がやってまいりました。四月らしくさわやかな天候にも恵まれ、絶好の登山日和です!」
西区フラーメン大学の鉱物学研究室では隔月恒例の行事がある。鉱石の定期観察という目的でおこなわれるカカペト山への登頂だ。
その八合目付近に良質なクリスタルが出土していることが発見されてから、ロハ先生はスオウ王からクリスタル研究のため特別入山許可を得て、この行事ははじまった。
本来のカカペト山の山開きは七月だ。八合目といっても標高は三〇〇〇メートルを超えている。さらにコリコ国からカカペト山のふもとに着くだけでも、一日かかる行程だ。
これに参加する者の荷物はもちろん、連泊の用意でリュックがぱんぱんにふくれ上がる。加えて観察用の道具も無理やり押し込んでいるから、どのリュックも留め具が今にもはちきれそうになっていた。
そんな重い荷物など背負っていないかのように、ロハ先生の朝のあいさつはお喋りで軽やかだ。先生は毎回この登山を楽しみにしている。行き先もやることも変わらないのに、先生はいつも意気込みを語る。その間はヨワとユカシイにとってもお喋りタイムだった。
「山登りなんて。美容のための運動だって思わなきゃやってられないわ」
ため息をつきながらユカシイがぼやいた。
「私もだよ。八合目の山小屋でしか食べられないご褒美のために登ってるの。ダゲンさんが作るあのサクサクで蜜のように甘いリンゴがつまった――」
『アップルパイ』
ヨワはユカシイと声が重なり顔を見合わせてふたりで笑い合った。
「あたしアップルパイがさらにおいしくなるように、シナモンとカスタード持ってきたんです」
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