16 固く閉ざされた屋敷①
リフトを降りるとヨワは立ち止まりじっと考え込んだ。
「先輩? どうかしましたか」
「東区に、行ってみようかと思うんだけど」
ヨワは手の甲をこすった。湿疹がわずかにうずいていた。
「東区? もしかしてホワイトピジョン家に」
ヨワはうなずき、伏し目がちにユカシイの顔をうかがった。
「ユカシイも来てくれるとうれしい」
「あたしが先輩の頼みを断るわけがないわ」
勝ち気な後輩の笑みをこれほど心強いと思ったことはなかった。
ヨワはさっそくユカシイを連れてフラココ乗り場へ向かった。フラココはコリコの樹の枝から枝へ渡されたロープと滑車で動くふたり乗りリフトで、この国の主な交通手段のひとつだ。
一定間隔にぶら下がる横板は止まることなく城下町の上を流れている。各区に数ヶ所設置された高台の乗り場から、横板がやってくるのを待ち構えて座る。最初は不安がる子どもも多いが、フラココにひとりで乗れるようになることはコリコ国では成長の第一歩で家族や友だちと練習する光景がいつの時代にもあった。
一度コツを掴んでしまえば公園のベンチに腰かけるのと同じだ。あとは城下町を巡る空中散歩のとりこ。観光客にも人気の一種の遊具だった。
ヨワとユカシイもフラココには子どもの頃から親しみがあり、何度乗っても木漏れ日の中を進む心地よさと町と湖とカカペト山を一望できる絶景にため息をついた。だが今、ヨワがついたため息は重く深い。ホワイトピジョン家の屋敷を囲む赤茶色の塀並み、黒々とした高い門を思い浮かべただけでのど奥に異物を感じた。
東区の水生植物園前でフラココを降りた時、ヨワはついにえずいた。幸い、少し胃液がせり上がってきただけでなにも吐かなかった。ヨワの異変に気づいていたユカシイはそっと背中をなぐさめた。
「先輩、無理しなくても……」
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