11 悪い知らせ⑤
「場が乱れましたが本題に戻りましょう」
額にかかるひと房の前髪さえ揺らさぬ静かな声だった。けして大きくも鋭くもないのにピンとまっすぐに張りつめた大臣の声は心に刺さった。
「ヨワさん。魔法とは勉学のように誰でも教われば身につくものではなく、血によってのみ継承されることはあなたも重々承知ですね。そしてホワイトピジョン家は代々浮遊の魔法を継承する我が国唯一の家系。その正統なる跡取りにして最後の次世代への担い手があなたの妹さんでした。いくら家を離れていても、それくらいの事情は察せますね?」
ヨワの母シトネは、義妹のルルを身ごもった時すでに四十二歳という高齢で出産は厳しい状況だった。今年で六十一歳になる女性に世継ぎを産むことはとうてい望めない。母方の叔母、父方の叔父、それぞれの夫婦の間にも子どもができた話は聞かなかった。あとは祖母がふたりいるのみ。ホワイトピジョン家には若い夫婦がひと組もいなかった。義妹のルルが最後の望みだったことをヨワもよく知っていた。
「しかし名家の務めなど聞いたことがありません。魔法は必ずしも受け継がれるものではないのでしょう。弱まったり、まったく発現しなかったりして失われた魔法はいくつもあると聞きます。どうして私があの家を継がなければならないのですか」
ヨワがそう訴えるとスオウ王とススドイ大臣は驚いた顔をした。どうしてそんな顔をするのかヨワにはまったくわからない。
「そうか。あなたはホワイトピジョンの務めさえ教えてもらえなかったんですね」
「えっ」
大臣の言葉に悲しみと寂しさが沸き起こった。そしてすぐにそんな感情を抱いた自分に失望した。中学校を十八歳で卒業し成人の仲間入りをするとともに、ヨワは家名を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます