5 早朝の訪問者②

「ちょ、ちょっとユカシイさん? 魔法の話ですよね。なんかあなた魔法じゃなくて違う技術磨いてませんか」

「やだなあ先輩。これもあたしなりに魔法について研究した結果ですよ。そういう雰囲気作りも大事かなあと思って」


 耳たぶを指先でなでられヨワは思わず目をつむった。ユカシイは楽しそうに笑っている。彼女のなめらかな手が頬にあてられヨワは竜鱗病のことが頭を過り恐怖で身が凍った。


「さあ先輩、あたしを見て。いくわよ」


 そよ風に額をなでられる感触がした。だがなにも起こらない。ヨワはユカシイをまじまじと見上げてみたが親しい後輩という気持ちに変化はなかった。


「どう? どうです?」


 ヨワは正直に首を振る。ユカシイはがっくりと項垂れた。


「もう! また失敗なの!? 魅了の魔法ってなんなのよ」


 どうにかこうにかユカシイの下から這いずり出ようともがいていたヨワは、チッチッチッと軽やかな小さい足音があちこちから聞こえることに気づいた。ユカシイの魅了の魔法は毎回ちゃんと成功している。ただそれがヨワ――人間――には効かないだけだ。

 どこからともなく集まってきたネズミたちは行儀よく一列に並んでひたとユカシイに熱い視線を向けた。魔法がかかっている証だ。


「ああもういいから。あなたたちは早く巣に帰りなさい」


 ネズミたちは短く鳴いて返事をすると部屋の四隅に散らばっていった。


「動物に言うこと聞かせられるだけでも十分すごい魔法だと思うよ」

「ダメよ。それじゃ完璧じゃないもの。ひいおじいさまのさらにおじいさまの時代は、人も魅了することができたと仰っていたわ。私はすべての手を尽くすまで諦めませんからね」

「ユカシイは本当に努力家だねえ」


 その時、資料置き場の扉がノックされた。

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