45.「希望は儚いほど打ち砕かれてしまうのが、物語の相場というものらしく」
ポカンと口を開けて、信じられないっていう表情で、
私の大好きな人が、呆けたように私を見下ろしていて――
「……い、いつからそこに――」
一抹の…、
いえ、『百抹』くらいの希望を込めて、私は恐る恐る、彼に質問を投げかけます。
「……いや、『坊やたち――』の、くだりくらいから」
――得てして、希望は儚いほど打ち砕かれてしまうのが、物語の相場というものらしく。
……って――
――バッチリ全部見られてるじゃないですかぁぁぁっ!?
恥ずかしさでバクハツしそうです。……いえ、心はすでにバクハツしております。
私は恋の神様を呪いました。運命の女神にツバを吐きかけてやりました。
――なんで、なんで……ッ!
――よりによって、大好きな人に、
あんなフシダラな姿を見られてしまうなんてッ――
「……柳、お前――」
コトラくんの冷たい視線が、研ぎ澄まされた包丁のように鋭い目が、私の全身を切り刻みます。穢れた私の身体を折檻します。……や、やめて、そんな目で、ミナイデクダサイ……。
耐えられなくなった私は、思わず地面に目を伏せて、両手で顔を覆って、
何も見たくないと、何も聞きたくないと、
だだをこねる子供みたいに、意識を世界から遮断しようとして――
「……お前、どんだけロックなんだよ――」
――えっ……?
世界が、止まってしまいました。
――と思ったのは、私だけだったらしく……。
予想の斜め八十五度くらい上の角度から投げかけられた、コトラくんの『台詞』……、あまりにも意外なその一言に、私は思わず、顔を覆っていた両手をフッと離しました。
視界が広がり、眼前にいるのは、大好きなコトラくん。
よくよく見ると、その目はキラキラと少年のように輝いて――
「……さ、さっきのお前…、サイッコーにクールだったぜ……」
――へっ?
思わず、マヌケな声が漏れました。……心の中で。
グルグルと頭が回っております。リミッターが外れたコーヒーカップのようです。……そんなものがあるのかは知りませんけど。
ともかく私の思考は、およそマトモに物事を考えられる状態ではなくて、オロオロと、大好きな人を見つめるのが精いっぱいで――
「……やべぇな」
ポロッと、食べかけのケーキをこぼしてしまったみたいに、コトラくんが呟きました。スッと私から視線を外して、その顔を、少しだけ朱色に染めながら――
「……自分の気持ちにケリつける……、言い出しっぺは、俺なのによ――」
――えっ、えっ、えっ、えっ……??
――それって、その言葉の意味って、その態度って――
グルグルと頭が回っております。電動モーターを搭載した竹トンボのようです。……そんなもの、この世には存在しないのですけど。
とりあえず私は、恋の神様にお祓いをしたあと、運命の女神のお顔を拭いてさしあげました。
……ふぅっと、息を整えて――
「……コトラくん、さっき見たコトは、私たち二人だけの秘密ですよ?」
ニコッと、小悪魔みたいに笑ったのは、『私』で――
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