第551話 地下に続く洞窟

 地下の古代遺跡を目指して、早朝。


 『青の雷獣』を中心としたタウロ達一行は、小さい洞窟に入っていった。


 そこは人一人がやっと入れるくらいの狭い出入り口で、覗き込むと中が少し広いが奥はあまり続いている感じはしない。


「よくこんな穴に入ろうと思いましたね……?」


 タウロは『青の雷獣』のリーダー・ジャックに感心してその理由を聞いた。


「はははっ!俺達も偶然だったのだ。ここに討ち漏らした魔物が一匹逃げ込んでな。入り口が狭いから、不用意に入るのも危険だからとうちのボマーヌがこの洞窟内に爆炎魔法を撃ち込んだんだ。そして仕留めたか確認の為に俺が中に入ったら奥の壁に亀裂が入ってそこから風が微かに吹いていてな。奥に何かあるのではという事になった」


 ジャックは偶然発見したきっかけについて語りながら、全員が狭い入り口から奥に入るのを見守った。


 全員が入るのを確認するとタウロを促し、最後に自分が入る。


「この奥だ。──それで、亀裂をうちの戦斧使いのアックに頼んで広げてもらうと……、──この穴ができたわけだ。だがこの亀裂も出入り口が狭くてな。誰も入りたがらないから、俺が代表して入って五分程進むと大きな穴に繋がっていたんだ。──みんな続いてくれ」


 ジャックは、説明しながら仲間が開いたという亀裂に今度は自分が最初に入っていく。


 その後に全員が続いていくのだが、その亀裂は湿気がある為じめじめしていて、虫が這っている。


 エアリスやラグーネ、シオンなど女性陣は『竜の穴』で虫の巣に入る訓練? をやらされていたので、進む途中で虫が手の上を這っても気にする素振りもない。


 だが、『銀の双魔士』の双子のジェマ、ジェミスはその虫の数に「ひぃ!」と言いながら、身を震わせて人一人が通れるくらいの狭い亀裂を必死になって進んで行く。


「この辺りは僕達、感覚麻痺しているよなぁ……」


 タウロはみんなが先に進むのを見送ってから最後に入っていく。


 ジャックから説明があった通り、壁を這うように五分ほど進むと、ようやく大きな穴に出られた。


「……ここからが本番だ」


 ジャックはそう言うと、森の神官フォレスの照明魔法で洞窟内を照らしてもらって、奥を指し示して続ける。


「この広い洞窟を四時間ほど降りていくと俺達が発見した地下の古代遺跡があるんだがそこまでの間も強力な魔物が出て来るから気を付けてくれ」


 とジャックはタウロ達に注意喚起した。


「……よくこんな洞窟の奥に入ろうと考えましたね」


 タウロはジャック達『青の雷獣』の探求心に感心した。


 普通、偶然亀裂を見つけても危険を考え、奥に入ろうとは思わない。


 それに、四時間も何があるかわからない奥に進むなんて考えないだろう。


「はははっ。──俺達が普通の人なら進まないさ。だが、俺達は冒険者だからな。未知の領域に踏み込むのが仕事だろう? 特に俺達Aランク帯冒険者なんていうのは、危険を顧みずにその領域に入っていくからこそ評価され、このランクを与えられている。魔物を倒すだけでは、このランクにはなれないのさ」


 ジャックは不敵な笑みを浮かべて、下りの洞窟を進み始める。


 そして、続ける。


「それにだ。かなり時間が経って風化しているが……、この足下を見てみろ。かなり崩れて分かりにくいが階段になっているだろう?これを確認した時点で進む以外の選択肢はなかったよ」


 ジャックが指摘する通り、下りの洞窟の足元は落石などもあって歩きづらいが、その間から階段の痕跡が見られた。


 確かにこんな偶然の亀裂から入れた奥で、人工物を確認出来たら、冒険者として確認せずにはいられないだろう。


 一般人からすればそれは無謀だが、冒険者なら当然の行為だ。


「……なるほど。好奇心が新たな発見をする事になったわけですね。冒険者の本分を教えてもらった気がします」


 タウロは異世界に来た時点でそれが冒険だと感じていたのだが、元からこちらにいた世界の人間にしてみたら、前人未到の場所に立ち入った時こそが冒険なのだ。


 魔物討伐クエストが多い冒険者ギルドではあるが、一握りの一流冒険者によって冒険できる世界が広げられている事を教えられたのであった。


「これが出来るのも長期間の留守が許される俺達上級冒険者の特権だからな。未知の領域は俺達が先に入って危険度を確認する。そして、俺達は名誉と金を、後続の冒険者は安全を確保できるというわけだ」


 ジャックは自分達の立場をよく理解している。


「私達も早くそっち側に行きたいわ」


『銀の双魔士』のリーダー双子の姉ジェマが隣のジェミスにぼやいた。


「命と隣り合わせの仕事だから、焦るなよ? 余裕のない行動は速攻、死に直結するぞ」


 ジャックがジェマ達を諭すように言う。


 それは自分達にも言い聞かせているようであった。


「前方に魔物の反応ありです。……こんな場所でも生きていける生態系がちゃんと出来ているんですね」


 ジャックからこの洞窟に魔物が存在する事は忠告されていたが、『青の雷獣』が発見するまで閉ざされた世界であったはずの洞窟内で魔物が存在する事がタウロにとっては驚きである。


「それは俺も考えたよ。どこかにまだ、未発見の地上に続く洞窟があるのか、タウロ君の指摘通りこの地下で生態系がちゃんと出来上がっているのか……。それも、今回調査したいところだな」


 ジャックは楽しそうに、だが、魔物を警戒しながら洞窟を降りていく。


 丁度、下から魔物が五体上がってきた。


 それはタウロ達が見た事がある魔物だ。


「あ!」


 タウロは驚いた。


 それは最近タウロ達が遭遇、討伐してから冒険者ギルドが警戒を強めている新種の魔物、オログ=ハイだったのだ。


「オログ=ハイは新種の魔物で頭が良く統制が取れているので油断しないでください」


「こいつらがオログ=ハイか……。何でそんな新種の魔物が俺達が発見した地下洞窟に居やがるんだ? 前回来た時には遭遇しなかったぞ? ──いくぞ、ロンガ、アック。ボマーヌ、フォレスは支援だ」


 ジャックは冒険者ギルドで報告を受けていた新種の魔物について思い出して疑問を持つのであったが、相手は魔物、すぐに討伐の為に気持ちを切り替え、立ち向かうのであった。

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