第485話 懐かしき支部長

 タウロはエアリス達と共にその場から離れると、屋敷内の空き部屋に移動した。


「久しぶりだな。この三年で見違えたじゃないか、タウロ」


 支部長レオは改めてタウロを下から上まで眺めて感慨深げに感心した。


「そうですか?──あ、身長は結構伸びたかもしれません」


 タウロは笑ってそれ以上に大きいレオと比べて見せた。


「聖女一行に付き従っているところを見ると、噂の方は本当のようだ。貴族の養子に入ったのだろう?今、幸せか?」


 支部長レオは成長著しい様子のタウロを見て確認した。


「どのような噂かはわからないので答えようが無いですが、一応、グラウニュート伯爵の養子に入ったのは事実です。──はい、お陰様で」


 タウロは少し照れながら答えた。


 レオにお世話になっていた時は、明日もしれない浮浪者上がりだったのだ。


 なんだがそれを思い出すと気恥ずかしかった。


「どうやら、仲間にも恵まれているようだし安心した。これならネイが聞いても喜ぶな」


 支部長レオはタウロの背後で静かにしていたエアリス達を見て頷くと、タウロを弟の様に世話していた受付嬢のネイの名を口にした。


「ネイさん……。──ネイさんは元気ですか?」


「ああ、今も冒険者ギルドで受付嬢をしてもらっている。お前が何も言わずに去った事を知った時は泣いていたがな。──それからはお前の情報が少しでもこっちに流れて来る度に嬉しそうにしているぞ」


「……そうですか。元気そうなら良かったです」


「モーブの奴は一度、こっちに帰って来ていたんだが、入れ違いだったな」


 支部長レオはタウロを冒険者にしてくれた恩人モーブの名を口にした。


「え?モーブさん、帰って来ていたんですが!?」


 旅先で会う事が出来ればと思っていたのだが、意外にこのサイーシの街に戻って来ていたのには驚きであった。


「モーブが率いるチーム『銀剣』はBランク帯冒険者として有名になってきているが、最近仲間を失ってな。新たなメンバーを募る為にこっちに戻っていたんだ。その時に装備なんかも一新したりして一時はいたんだが、最近、また、旅に出て行ったな」


「そうですか……。でも、元気なのなら良かったです。他のみなさんは元気ですか?」


「みんな元気さ。お前が色々とテコ入れしてくれた店も繁盛しているし、カレー屋も相変わらずの人気だ。冒険者ギルドの連中も他所に出て行った奴はいるが、こっちで頑張っている者も多い。まぁ、冒険者は危険と背中合わせの職業、時には不幸に見舞われる奴もいたが、うちの冒険者連中はまだ、幸せな方かもな」


 支部長レオは自分のところに所属する冒険者達を誇るのであった。


 それから少しの間、思い出話に花が咲くのであったが、聖女が到着して表が騒がしくなってきていた。


「おっと。俺も冒険者ギルド・サイーシ支部長として、聖女様とやらを歓迎しないとな。王太子殿下もいるのだろう?うちは今、王家預かりの領地だからな。次の領主が誰になるかわからんが、ご機嫌を損ねてろくでもない奴に任せられてもたまらんからな」


 支部長レオは大事な事を思い出したとばかりに、タウロの頭を撫でると続けて、「お前も忙しいだろうから今回は無理かもしれんが、たまにはうちにも顔を出して挨拶くらいはしてくれよ。それじゃあな」と、言って部屋から出て行く。


「あれがリーダーの駆け出し冒険者時代の師匠か?竜人族並みに強いんじゃないか?」


 アンクが、支部長レオをそう評した。


「私もそう思ったわ……。道理でタウロが最年少の冒険者として活躍できるわけよね」


 エアリスも支部長レオの強さを肌で感じたのだろう、素直に感心した。


「私が出会った人間の中では指折りの人物だと感じたな」


 ラグーネも支部長レオをそう評価した。


「さすがタウロ様のお師匠です!」


「いや、みんな。僕、ほとんどは、武芸教官のダズさんから習っていたんだけど?でも、そのダズさんもレオさんと同じ元Aランク帯冒険者だったらしいから、どちらとも凄いのは確かだろうね」


「そのサイーシ支部はとんでもないな!」


 アンクが呆れた。


「当時の僕はまだ、凄さがよくわかってなかったけど、成長して再会してみたら、その凄さを肌で感じる事ができたよ。とんでもない人にお世話になったんだなぁ」


 タウロは、懐かしい支部長レオとの再会を笑顔で受け止め、感想を漏らすのであった。


「少しの間だったけど、お世話になった人に会えて良かったわね」


 エアリスは喜んでいるタウロを見て自分も嬉しくなったのか笑顔でそう答えた。


「うん!この三年間あっという間だった気がするから、振り返る暇もなかったけど、実際こうして会ってみると懐かしいし、良いものだね」


 タウロはエアリスに笑顔でそう返すと、「僕達も行かないと、面倒な事になっちゃう!」と続けて部屋と飛び出すのであった。


 聖女一行はあくまでもハラグーラ侯爵領に赴く途中の宿泊場所としてサイーシの街に立ち寄っただけであったから、簡単な歓迎を受けると早々に集まりは解散した。


 一部、サイーシの街の権力者達が王太子との面会を果たして今後の街についての上申が行われたらしいが、もちろん、タウロ達は蚊帳の外であったから詳しく知る事は無いのであった。



 タウロは夜のサイーシの街を散歩する事にした。


 明日の朝にはここも発つのだ。


 その前に、自分の冒険者としての始まりの地で、少し思い出に浸ろうと思ったタウロであった。

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