第469話 前日の作戦会議
エアリスは、ムーサイ子爵、ドナイスン侯爵の望む解決方法である囮になる事を承諾した。
タウロもエアリスもこの二人がエアリスを囮にした作戦を提案するのではと思っていたから想定通りの流れであった。
「……そうなると作戦ですが、この数日中に決定して実行しないといけません。エアリス嬢が良ければ、もう一度、二人がいたという広場に行って頂き、帝国兵にまた、そこで拉致作戦を実行してもらう。そして、そこを我々が包囲し一網打尽にするのが良いかと思うのですが?」
ムーサイ子爵は、一度拉致に失敗した帝国兵にもう一度、同じ状況のチャンスを与えようと言うのだ。
「……それは、警戒されませんか?二度も同じチャンスが訪れるとなったら疑いそうなものですが……」
ドナイスン侯爵が、眉間に皺を寄せて指摘する。
「いえ、だからこそ帝国兵は今度は囲みを万全にし、エアリスを捕らえようとすると思います。あちらは僕達が囲みに気づいて逃げたとは思っていないと思いますから」
「タウロ殿がそう思うのであれば、それに期待するしかない……か。──考えている時間はない。その作戦でやってみましょう。──うちからは聖女の護衛があるので数は出せませんが、信用が出来て腕の立つ者を五人程回しましょう」
ドナイスン侯爵は、作戦を承諾すると優秀な部下を貸す事を約束してくれた。
「うちは領兵達を住人の中に忍ばせて当日周囲に配置します」
「あそこは人気のない場所なので、地元住民もあまり寄り付かないところですから、そこに集まる者は帝国の手先だと思って全員捕らえます」
ムーサイ子爵は意外に強引な作戦を提案して来た。
まあ、当日、本当の住人も捕えてしまいそうだが、帝国兵を逃すよりはいいだろう。
「……わかりました。あと、うちの仲間のラグーネとアンク、シオンの三人も当日参加させてよろしいでしょうか?この三人の腕は保証します」
タウロはバリエーラ公爵領の領兵を信じていないわけではないが、それ以上に仲間の方が頼りになりそうだと思ったからである。
「──わかりました。お二人が囮になってくれるわけですから、お二人の好きにして下さい。ただし、作戦の邪魔にだけはならないようにお願いします」
ムーサイ子爵は、タウロの仲間の腕がどのくらいかわからないから、不安は残るのであったが、それは口にしないのであった。
そこへ、部屋の表から声がしてきた。
「──おいおい、あんたらうちの部屋の前で何してんだ?中に入れろよ」
「強引に中に入ってもいいのだぞ?」
「お二人共、力づくは駄目ですよ?」
どうやらアンクとラグーネ、シオンのようだ。
表には邪魔が入らないよう、ムーサイ子爵の部下が立っているから、それと揉めているようだ。
「──言った傍からうちの仲間が帰って来たようです。中に通してもらっていいですか?」
タウロは苦笑すると、ムーサイ子爵にお願いするのであった。
「──なるほどな。勘で何か起きてる気がしたから早く戻って来たんだが、そんな事になっていたのかよ。──で?俺達は当日好きに動いて良いのか、リーダー」
事情を聞いたアンクは、ムーサイ子爵、ドナイスン侯爵を前にしても遠慮なくタウロに聞いてきた。
「今度はタウロより私が傍にいた方が良いのではないか?私がエアリスを盾スキルで敵から守っている間にみんなが助けに駆け付ける方が、より安全だと思うのだが?」
とラグーネ。
「お二人を守るという事なら、ボクの能力も多数の敵相手に十分戦えますよ!」
とシオン。
「みんな、今回の作戦は聖女拉致を企む帝国の目的を断念させないといけないから、一網打尽にしないといけない。今回同様、当日も僕が一緒にいる事で敵に余計な警戒させないようにしたいんだ。だからみんなは領兵達と一緒にどこか近くに潜んでおいて」
タウロは仲間に注意をするように説明しながら、ムーサイ子爵とドナイスン侯爵が何か言い返して作戦自体がごちゃごちゃにならないように遠回しに釘を刺すのであった。
「……わかったぜ、リーダー。ちゃんとエアリスを護りなよ?」
アンクが、意味ありげに言ってニヤリとする。
「?うん、もちろんだよ」
タウロはその笑みがわからないという鈍さであったが、頷くのであった。
作戦決行の前日からムーサイ子爵は広場の周辺の建物に領兵を忍ばせる事にした。
見張られているのは、聖女がいる場所である城館であり、そこから出てくる聖女にだけ目を光らせているはずだから、先に現場に領兵を向かわせて準備をしたのである。
アンクとラグーネも広場の傍の廃屋で待機する事にした。
シオンは、一見すると子供なので警戒されにくいだろうという事で当日は、広場付近で一人遊ぶボッチ少年?を演じてもらう事にした。
「ぼ、ぼっち……。ボクは確かにタウロ様に拾ってもらえるまではぼっちだったので演じなくても素で出来ますけどね……?」
とシオンが少しへそを曲げた以外は問題無く準備が急ピッチで行われるのであった。
その間、本物の聖女マチルダは最近のお気に入りであるサート王国側の取り巻きであるテイマーの魔物相手にご機嫌であった。
責任者の王太子も裏で行われている作戦については何も知らされずに、次の目的地についての旅程や護衛態勢などの確認に余念がないのであった。
「……タウロ。当日はあなたも気を付けてね?私は拉致対象だから危害は加えられないと思うけど、一緒のタウロはどうなるかわからないんだから」
エアリスは、この夜、タウロの部屋にやってくると、そう忠告した。
「もちろんだよ。それに僕が殺しても死なないのは知っているだろう?ぺらもいるし」
タウロはフラグとも思える様な事を笑って言う。
「……そうね。でも相手は帝国兵。どんな手を使う相手かわからないから、くれぐれも危険だと思ったら逃げてね?」
「うん。──明日は早いから寝なよ」
「お休みなさい」
エアリスはしおらしく答えると自分の部屋に戻っていくのであった。
「帝国兵、……か。今日の僕達を包囲する動きを見ると相当訓練されていたから、気を付けないとな……」
タウロは寝室に入って横になった。
そして、睡魔に襲われるとそのまま、深い眠りにつくのであった。
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