第423話 親子の秘密
その日、ハクがタウロには自分のところに泊って欲しいという事で、タウロだけ離れの空き家ではなくクロスとハク親子の大きな家に泊めて貰う事にした。
「ハクのわがままを聞いて頂きすみません」
クロスは、嬉しそうなハクの代わりに無理を言った事を謝罪した。
「いえ、僕もお二人には会って話を聞きたいと思ってたので」
タウロは子供の自分にも丁寧なクロスに好感を持った。
クロスは黒髪の長髪を垂らし、髭を生やしている。
その姿から一見すると歳にも見えるが、そんなに老け込んでいる感じはしない。
きっと、右足を引きずっている姿が、年老いている様に感じるのかもしれなかった。
よく観察すると、右腕も負傷しているのか動きが覚束ない印象だ。
「父は大怪我をするまで、この村の治安を守っていたのです。先生くらい強い人だったんですよ!」
ハクは、父クロスのお手伝いをしながら、お客として歓待しているタウロに父親の事を説明した。
「怪我の相手は、魔物とか?」
タウロが聞いた話を確認した。
「……ハクはその場にいなかったので知りませんが、……本当は魔物ではなく人です」
「え?」
ハクは初耳とばかりに、突然の父の告白に驚いた。
「それはまた……、少し話が見えないのですが、なぜ、周囲の人は魔物と言っているのでしょうか?」
この村の人々は魔物からクロスが村を守り、大怪我を負ったと口を揃えて言っていたのだ。
クロスの言葉はそれに反していた。
「それは、私にも言えません。ただ、私は怪我をして役に立たないので、この村は代わりの戦士を必要としています。タウロ殿達はその代わりに選ばれたのだと思います」
クロスは、タウロの向かいの席に座るとそう説明した。
「何から村を守る為に僕達が必要なのですか?」
タウロは当然の疑問を口にした。
クロスの大怪我の相手は人だという、それを魔物と口裏を合わせる村人達は何を隠しているのか、クロスも詳しい事は言えない素振りを見せているが、秘密の一部を話してしまったのは確かである。
きっとそれは、タウロ達に警戒させる事で、慎重に判断して欲しいという事だろう。
「……それは──」
傍で状況がわからず固唾を吞むハクの隣でクロスが何か言いかけると、出入り口の扉からノックする音が聞こえた。
誰か来たようだ。
タウロはそこで、クロスの話に集中していて『気配察知』を使用していなかった事に気づいた。
クロスが扉を開けると、そこにはガゼ村長が立っていた。
「……村長、こんな夜更けにどうしました?」
「クロスよ、ちょっといいか?」
村長の顔には深刻そうな表情が浮かんでいる。
「では中へ」
クロスが、中に招き入れようとする。
「いや、内々の話だ。外で頼む」
村長は、そう言うとクロスを外に出る様に促した。
「──すみません、タウロ殿。ハクと一緒に話していて下さい」
クロスはそう言うと、村長と一緒に外出するのであった。
「……初めて聞きました。大怪我の話……」
ハクは、まだ、ショックが大きいのかタウロにぽつりとつぶやいた。
「君のお父さんは剣の腕が優れていたんだよね?」
「はい。とても強い戦士で、村の人達も頼っていました。俺の誇りなんです」
ハクが父クロスを尊敬しているのが伝わってくる。
だが、何かこの村は秘密を抱えている様だ。
クロスはそれを自分に話そうとしたが、村長がタイミングよく訪れた……。
監視されていた?
タウロはそこで改めて、周囲の気配を『気配察知』で確認した。
周囲にも家があり、人の気配も複数感じる。
家族団らんで過ごしている気配もあれば、夫婦で過ごしている気配、独り身の気配も感じる。
今のところ疑わしい気配は特にない気がする。
「ハク、お父さんが怪我したのっていつ?」
タウロが、確認の為に質問する。
「えっと……、一か月前でしょうか?」
「そこにタイミングよく僕達が、マイン村に訪れた……か」
タウロは、考え込んだ。
「何かあるのでしょうか?」
ハクが、突如湧いた疑問を口にした。
「……ハク。君も父同様に、きちんと村のみんなに接してもらえていると言ってたよね?」
「ええ、そうです。父クロスの息子として大事に扱ってもらえていると思います」
「……これ以上は、推測だし、確証もないからクロスさんに直接聞くか……。ハク、お父さんの事は好き?」
「もちろんです!立派な父の事を尊敬していますし、誇りです!」
ハクは胸を張って答える。
「僕も君の父親と話す限り、立派な人に映るし、きっと事実なんだと思う。だから先の話もきっと何か理由があると思うから、信じて上げて」
「もちろんです!」
こうして、タウロとハクは夜遅くまで、話し込むのであったが、クロスは中々戻ってこず、タウロとハクは先に寝る事にした。
深夜、クロスが戻って来た。
タウロはいち早く『気配察知』で気づいて起きるとクロスを出迎えた。
「起こしてしまいましたか、すみません。ハクは?」
タウロに気づいたクロスは驚く事なくお詫びすると息子の確認をした。
「眠ってます。聞きたい事がいくつかあるのですがいいですか?」
「……答えられるかわかりませんが、伺いましょう」
クロスは、タウロがハクの話以上に鋭い人物だと察し、何か腹を据えたかのようにリビングの席に座った。
「……まず最初に。この家、近くの住人に、何かの能力で会話を盗み聞きされてますよね?」
タウロは思わぬ変化球をクロスにぶつけてきた。
「……!やはりそうでしたか……。薄々は気づいていましたが……」
クロスは、ため息交じりに答えた。
「今は、あちらも寝ているのでこの会話は聞かれていないのでご安心を。それでなぜこの様な事態に?」
タウロはクロスに思わぬ驚きを与える事で話しやすくする下地を作ると本題に入った。
「それは……、私とハクを監視する為でしょう……。この村に私が来たのは約十三年前、幼いハクを育てる様に任された年でした。多分、それからずっとかもしれません」
「それはつまり、ハクが実子ではないという事ですね?」
「ええ……。ハクも自分が実の子ではない事を知っています。それでも、実の子以上に親子の情があると思っていますが……」
「もしかして怪我は、ハクを守る為?」
「それはわかりません……。村長にこの村にやってきた男に大事な情報を握られたから殺してくれと頼まれ、躊躇していると相手に逆に襲われ負傷する事に……」
どうやら、この村はやはり何か隠しているらしい。
それが、ハクに関係しているのは確かだろう。
タウロは、もう少し、クロスから話を聞きたいと思うのであった。
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