第410話 身内の食事会【定期あり】
その日の夕食は、タウロ達とグラウニュート伯爵夫妻との賑やかなものになった。
当初、ラグーネ達が久しぶりのタウロと夫妻の親子水入らずでの食事をと気を使ったのだが、アイーダ伯爵夫人がいまさら気を使わないでと、全員で一緒に食事する事になったのだ。
それで無礼講と言っていいものになっていた。
だが以外にも、ラグーネは食べ方こそ豪快だが貴族の食事マナーもそれなりに心得ていたし、シオンも同じであった。
逆にグラウニュート伯爵夫妻と交流関係が長いアンクがマナーがなっていないくらいであったが、これはグラウニュート伯爵が「いつもの事だ」と、笑って済ませるのであった。
「それにしても驚くのはシオンちゃんだな。聞けば母親から躾けされたと聞くが、食事マナーまで教え込まれているとは、その母親はただの獣人族の平民ではあるまい」
グラウニュート伯爵は、シオンに感心するのであった。
「ボクのお母さんは、何でも知っている猫人族でした。ボクは覚えてないけど、お父さんはただの行商だったとか……。それ以上は知らないですけど、お母さんから習った事がこんな形で役に立つ日が来るとは思ってなかったです」
シオンは、そう答えると美味しそうにデザートのケーキを口に運ぶ。
「ほう。そのお父さんの出生さえわかれば、親戚を探して上げる事もできるのだがな。手掛かりはないのかね?」
「形見の指輪がありますが、鑑定して貰ったら量産品の安物で価値が無かったので、手掛かりにはならないと思います」
シオンは、首から下げた小さい袋チラッと見せるとすぐに引っ込めた。
「そうか……。母親の方の家族はいないのかい?」
グラウニュート伯爵はシオンが天涯孤独だと聞いているのだろう、同情からか少しでも力になれないかと聞くのであった。
「お母さんが言うには、祖父と祖母は早くに亡くなったとか。でも、ボクがいるから寂しくないとよく言ってくれてました」
シオンもそれを思い出し、寂しくなったのか目を伏せた。
「おっと、すまない。あまり聞きすぎるのも良くないな」
と、グラウニュート伯爵は反省した。
「いえ、大丈夫です。今は、タウロ様やラグーネさん、アンクさんという仲間がいますから!」
シオンは笑顔で答えた。
「そうだぜ、伯爵。あんたはすぐ、人の人生に興味を持ちたがるからな」
アンクが、自分も根掘り葉掘り聞かれた事があるのだろう、グラウニュート伯爵に茶々を入れるのであった。
「ははは、違いない。私の悪い癖だな。好奇心が強すぎていけない」
グラウニュート伯爵は笑うと手元のお酒をグイッと飲み干して苦笑するのであった。
そこからは、タウロの話に移った。
カクザートでの活動や代官が苦労している事も早速伝えておいた。
「カクザートの街を任せられる人材はいなくもないのだが、すでに他の街を任せていてな。先日、断られたばかりなのだ。タウロ、旅先でいい人材でもいたら報告してくれると助かる」
グラウニュート伯爵はタウロの目を信頼してくれている様だ。
「わかりました。ところで、断った相手はもしかして、ワーサン魔法士爵ですか?」
タウロはふと頭を過ぎったので、何となく聞いてみた。
「その通りだ!──何で分かったのだ?準男爵に地位を上げると申し出たのだが、今の自分には資格が無い、今は街を治めるだけで精一杯です、と言ってな。そう言えば、領内巡検使と会ったと報告も受けているが、ワーサン魔法士爵と何かあったのか?」
「何かあったという程ではないですが、魔法士爵の息子の件でちょっとありまして……」
と、タウロは旅先であった事を説明した。
「……なるほどな。それで、反省して断って来たという事か」
グラウニュート伯爵とアイーダ夫人は息子の活躍に嬉しそうに頷くと、
「その話の様子なら、息子も立派な跡継ぎになりそうだな。将来、タウロの右腕になってくれるかもしれない」
と、話すのであった。
他にも盗賊が出た事や、暗殺ギルドの残党が領内に入り込んでいる事なども報告した。
「……ふむ。報告は受けていたが、危なかったな……。各街や村の長達には身分を証明できない者は警戒する様に伝えてはいるが、徹底はしていない。警戒し過ぎて住みにくい土地になって欲しくないからな。盗賊の件は付近の残党狩りも命じたし、大丈夫だろうが、暗殺ギルドの残党については、難しいな……」
「それは大丈夫だと思います。竜人族の戦士達が残党狩りをするべく各地に散っていますので、時間の問題だと思います」
タウロが、グラウニュート伯爵を安心させようと知らせた。
「その通りだ。我々竜人族の最高の戦士達に追われて逃げられる者などいないからな!」
少しお酒に酔ったラグーネが、胸を張って自慢した。
「ふふふ。心強いわね、あなた」
アイーダ伯爵夫人が、頼もしそうに頷くのであった。
「そう言えば、アンクから聞いた話なんですが──」
タウロは、先代グラウニュート伯爵の落とし胤が領内いる可能性伝えた。
「ははは!そういう話はよくある事だ。私に弟妹がいるかもしれないという話はカクザートの街にも以前からあってな。一応、調べさせるのだが根も葉もない噂ばかりだ。もし本当にいたら、その者に仕事をいくつか任せて私も楽が出来るんだがな」
グラウニュート伯爵は今、かなり忙しいのだろう、冗談とも本音とも取れる言い方で答えるのであった。
そこで、妻であるアイーダ伯爵夫人が話を変えようと思ったのか、一つの提案をした。
「そうだわ!一か月後に各街、村の代表を招いてタウロさんのお披露目会が決まっているから、タウロさん、一か月の間に各街、村を多く回ってその人達と交流して来て下さいな。もちろん、私達の子供である事を隠して。そして、当日みなさんをびっくりさせたいわ」
いたずらっ子の様な妻の提案だった。
これには、グラウニュート伯爵も苦笑いする。
「こらこら、タウロには冒険の旅を思う様にさせてやりなさい」
と、注意するのであったが、少し楽しそうにしているから、これは応えなくてはいけないだろう。
「わかりました。今のところ、自分から名乗る事もなくやってきていたので、問題無いです。それでは一か月間、各地を回ってきますね」
タウロは、母アイーダの提案で一つ楽しみが出来たのであった。
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【定期宣伝】
この作品「自力で異世界へ!」1巻が、8月10日から書籍化、発売しています。
書籍版の書き下ろしとして、タウロとモーブの出会いから別れまでの物語となっています。
本編では語られなかったエピソードがモーブ視点で書かれた外伝となっておりますので、こちらも楽しみにして頂けたら幸いです。
もし、この作品が面白いと思えて頂けてましたら、書店等で手に取って頂き、ご購入の検討をして頂けたらな思います。
みなさん、よろしくお願い致します。<(*_ _)>
※下記のリンクの近況ノートにその他の情報も!
https://kakuyomu.jp/users/nisinohatenopero/news/16817139557607574820
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