第406話 朗報

 タウロとシオンは、夕方宿屋の部屋に戻ると、アンクが少々お酒が入ってご機嫌になっていた。


「おう、リーダー!──うん?そっちは……、シオンか!?これは驚いたな。忘れがちだったが、ちゃんと女の子じゃないか!その服、似合ってるぜ!」


 アンクは、シオンワンピース姿を褒めてくれた。


 意外にアンクはそういうところを褒めるタイプなのか。


 タウロは感心する。


 自分は、そういう事に鈍いのだ。


 これからは、意識していこうかな?


 と、タウロは、そう自分に言い聞かせた。


「あれ?ラグーネは?」


 タウロがアンクにラグーネが見えないので確認した。


「俺もさっき帰って来たばかりだが、まだ、戻っていないみたいだぜ?」


 アンクは、その辺りは確認したらしい。


「じゃあ、アンクだけ、先に話しておこうかな?」


 タウロは領都へ行ってみる提案をアンクにしてみた。


「おう、やっとか!領都であるグラウニュートの街はそれは立派だからな。楽しみにするといいぜ。俺にとっては、第二の故郷と思うくらい住みやすいところだ」


 アンクがべた褒めするのも珍しい。


「アンクは賛成か。じゃあ、後はラグーネだけど──、うん?」


 タウロが、そう言いかけるとラグーネとシオンの部屋から人の気配がした。


 どうやら『次元回廊』で戻って来たようだ。


 そして、そのまま直接タウロの部屋に、ラグーネはやって来た。


「みんな揃っているのだな!」


 ラグーネはやけに上機嫌であった。


 かといってお酒を飲んでいる感じでもない。


「……何か良い事でもあった、ラグーネ?」


 タウロが、その理由を聞いてみた。


「ふふふ……、実はだな。エアリスの怪我が完治したのだ!」


「「え?どういう事?」」


 タウロとアンクは思わず聞き替えした。


「実は今日、私はエアリスの元に遊びに行っていてな。そこでエアリスの後遺症完治の報告を受けたのだ!」


「竜人族でも治療が難しい重大な怪我じゃなかったの?」


 タウロはそう聞かされていた。


 エアリスはだからこそ、引退を考えた誕生日よりも前に早く、冒険者を辞めたのだ。


「前回、ヴァンダイン侯爵領に行った時、竜人族の先輩を三人連れて行った話をしただろう?その中に大聖女もいたのだが、エアリスの怪我の後遺症を治せないかと話していたのだ。それでエアリスに付きっきりで治療を行って貰っていたのだ」


「それで、治療が完了したという事なの?」


 タウロは、再度確認する。


 ぬか喜びだけは勘弁だったのだ。


「そういう事だ。当初は難しいと大聖女からも言われていたのだが、タウロがサイボウという人体の話をしてくれただろう?それを大聖女に話したらそれがヒントになったらしく、治療のやり方を変更してな。私の魔槍で変異したと思われるサイボウの部分を、根こそぎ消滅させ、元からあるサイボウを活性化させて増やし、失った部分に入れる、だったかな?そんな説明を受けたのだが私も詳しくはわからない。だが、ともかく、そのおかげでエアリスの後遺症は完全に完治したのだ!」


 ラグーネは、エアリスが許してくれたとは言え、ずっとその事を気にかけていたのだ。


 そして、大聖女に治療を再度お願いしたのだろう。


 タウロが、エアリスの後遺症の可能性の一つとして、話した内容をラグーネは覚えていて大聖女にそれを伝えた。


 そして、大聖女はそんな憶測のみから治療法を見つけてくれたようだ。


「……そうか。エアリスはもう、後遺症に悩まされずに済むんだね、良かったよ」


 タウロは、ホッと安心した。


 ラグーネを責める事になるかもしれないので、あまり口にはしなかったが、エアリスの後遺症についてはずっと心配していたのだ。


 なにしろ大聖女でも当初は完治できなかった怪我である。


 だからこそ、言っても詮無い事だと黙っていたのだ。


 そんな中で、タウロは細胞レベルで変異が起きていて、それが後遺症になっているのではないかと素人の浅知恵で思いつき、それをラグーネに思わず、漏らしてしまったのだが、どうやら間違っていなかった様だ。


「そうか、治ったのか。それじゃ、エアリスは何も気にする事なく、侯爵令嬢として人生を改めて歩めるな!」


 この朗報に、アンクもお酒の力もあってご機嫌である。


「みなさんおめでとうございます、良かったですね!」


 シオンは、仲間の喜ぶ姿に自分の事の様に喜んだ。


「それにしても、ラグーネがそんな事を考えて竜人族を連れてヴァンダイン侯爵領まで出かけていたとはな。言ってくれればいいものを!」


 アンクがもっともな指摘をした。


「すまない。私も完治する可能性が低いと大聖女からは言われていたので、自信がなかったのだ」


 ラグーネは申し訳なさそうに答える。


「……そうか、でも、これで胸のつかえが一つとれたよ、ありがとうラグーネ」


 タウロは、改めてエアリスの気持ちを思うと、ラグーネに感謝するのであった。


「エアリスも喜んでいるだろう?本人も気にしている感じだったからな」


 アンクは、ラグーネにエアリスの様子を確認した。


「あ、ああ。だがまだ、表情が暗い気もしたが、きっと大丈夫だと思う。また、今度遊びに行くつもりだから、その時までには、きっと気持ちも晴れていると思う」


 ラグーネは気になる様な事を話した。


「何かエアリスには他に困っていることでもあるのかい?」


 タウロがラグーネの言葉が気になって聞き返した。


「うーん……。それが私にも話してくれないのだ。大した事ではないと答えるばかりでな……。──ところでみんなはなぜ集まっているのだ?」


 ラグーネは、タウロの部屋に集まったみんなを改めて見渡し聞く。


「あ、そうだった。ラグーネにも聞いておかないといけないのだけど──」


 タウロは、アンクに話したようにラグーネにも領都に向かう提案をした。


 それを聞いたラグーネも、タウロの意見ならと賛同し、翌日、一行は早々に宿屋を引き払い、一路、領都に向かうのであった。

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