第324話 ゴブリンキング戦
ゴブリン達の動きにエアリスは、包囲されている味方の周囲に魔物除けの結界をいち早く張った。
今更な気もするが、魔物除けの結界を張ることでゴブリン達はその範囲に入る事を嫌って躊躇するのだ。
更に、続けてエアリスは対魔法結界を張る。
そこへ遠巻きに様子を窺っていたゴブリンメイジ達が火魔法を唱えて撃ってきた。
ゴブリンメイジの魔法は結界に阻まれるとその場で弾け、結界外のゴブリン達の上空に降り注ぎ、小規模ながら混乱を生み出した。
「結界が効いてる間にゴブリンメイジを仕留めるんだ!」
王都組の冒険者の一人がそう叫ぶと、ゴブリンメイジ達に向かって攻撃を仕掛け始める。
エアリスはそれを確認すると、新たに魔法を唱えてラグーネ、アンクの前衛の攻撃力を強化した。
ラグーネとアンクはそれを確認するまでもなく、ゴブリンキングに向かっていく。
ゴブリンキングは、大剣を右手に握り、左手には杖を持っている。
どうやら、魔法も使えるらしい。
アンクは魔法を使わせまいと、杖を握っている敵の左側から攻撃を仕掛けようとする。
ラグーネはその逆で敵の右側の大剣を封じ込める為に盾を翳して向かっていく。
だが、そうはさせまいと周囲を取り巻く、大きなホブゴブリン達が遮ろうと前に出た。
がしかし、次の瞬間、タウロの強弓から放たれる矢によってホブゴブリン達は射線上の数体がその貫通する威力に仕留められていって、遮る事なく絶命していく。
アンクはそれが分かっていたとばかりに、絶命し倒れるホブゴブリンをゴブリンキングとの死角に利用した。
そして、そのままゴブリンキングの脇に躊躇なく飛び込むとゴブリンキングに斬り付ける。
ゴブリンキングは、その動きを読んでいたのか、アンクの大魔剣の剣先を余裕を持ってかわした……、つもりだった。
しかし、風属性の見えない剣先が、ゴブリンキングの杖を持つ左手首を切り落とした。
ギャッ!
ゴブリンキングが短い叫び声を上げる。
それと同じタイミングでラグーネは、自分に振り下ろされるゴブリンキングの大剣の一撃を、タウロから貰った『鏡面魔亀製長方盾』で撥ね退けた。
そして、隙が出来たゴブリンキングの脇腹にラグーネは躊躇なく魔槍を突き刺した。
グギャアアアアア!
これにはゴブリンキングもかなりの痛みを感じたのだろう、悲鳴の様な叫び声を上げる。
その瞬間をタウロは見逃さなかった。
ゴブリンキングが左肩に矢を射られた事で、自分を警戒しているのは分かっていた。
だが、ラグーネとアンクの攻撃にその警戒が緩んだのだ。
タウロはアルテミスの弓を引き絞ると、ゴブリンキングに向かって渾身の光の矢を放つ。
矢はゴブリンキングの胸に真っ直ぐ吸い込まれていくと、その心の臓を貫通して背後のホブゴブリンの額に突き刺さって止まった。
するとゴブリンキングの大きな体躯がスローモーションの様に背後に倒れていく。
ズーン
鈍い音を立てゴブリンキングが地面に仰向けに倒れ込むと、一瞬、間を置いて王都組から歓声が上がった。
わあああああ!
「ゴブリンキングを討ち取ったぞ!」
「あとは掃討戦だ!」
「みんな反撃するんだ!」
その声にダントン子爵勢からも歓声が沸き起こる。
そして、力を得たダントン子爵勢は残された力を振り絞り、反撃に出た。
ゴブリン軍団は今度こそ指導者を失って、先程までの勢いはどこへやら、蜘蛛の子を散らした様に逃げ始めた。
こうなっては数の優位もへったくれもない。
ゴブリン軍団は瓦解し、人間側の大勝利が確定したのであった。
その後の掃討戦も、実際のところ大変であった。
そのまま逃がせば、数は多いのだ、他の村を襲う可能性が十分ある。
なので、仕留められるだけ仕留めなければならい。
タウロ達も虐殺さながらに掃討して回り、エアリスも魔法から殴り杖に変更して片っ端からゴブリンを殺して回った。
その掃討戦は夜遅くまで行われ続けたのであった。
「……はぁはぁ。流石に体力がアップした僕でもしんどいや……」
前線の野営地に戻ったみんなの中で、最初にタウロが弱音を漏らす。
「……私も、魔法を体力上昇に絞って使ったけど、魔力回復ポーション飲み過ぎたわ……。──あ、それに汚れと臭いで最悪だわ……、タウロ、『浄化』をお願い……」
エアリスもゴブリンの返り血を沢山浴びて汚れた状態だったので、その汚れを確認するとタウロにお願いした。
「俺達も頼む。流石に今回はしんどいぜ……」
と、アンク。
「私もだ。一緒に頼む」
と、ラグーネ。
「……わかった。じゃあ、まとめて綺麗にするね。『浄化』……!」
「「「ありがとう……」」」
一同は、不快な汚れと臭いが無くなってホッとすると、野営地のテントにすぐに潜り込み、早々に寝てしまうのであった。
翌日も朝早くから、ゴブリンの掃討戦が繰り広げられた。
だが、それも流石に昼までで切り上げると、ダントン子爵勢と合流してクエスト完了の確認を取る事にした。
ゴブリンは元々どこにでもいるので、掃討と言ってもきりがないのだ。
後は、ダントン子爵領の領兵と冒険者達に任せる事になった。
そこに、ダントン子爵本人が現れた。
流石に想定外のゴブリンキング出現があったので子爵自ら冒険者達を労うくらいはした方がいいと思ったのだろう。
「皆の者、よくぞゴブリン軍団を討伐してくれた。ゴブリンキングの出現は想定外であったが、流石王都の冒険者諸君だ。Bランクのチームを中心によく頑張ってくれたと聞いている、改めて感謝するぞ!報酬は冒険者ギルドを通してしっかり支払うので安心してくれ給え。それでは私は事後処理があるので失礼する」
ダントン子爵はそう答えると、早々に領都に戻っていった。
「……その場で特別報酬でも貰えるかと期待したが、ケチな領主だったな」
王都組の冒険者の一人が、ぼそっと愚痴を漏らす。
「まあ、これもクエストの延長線上だからな。ギルドで報酬は出るんだ、そっちに期待しようぜ」
「そうそう。ギルドに報告するまでがクエストだ。とっとと帰ろう」
王都組の冒険者達は、そう言うと馬車に乗り込んでいく。
B-ランクチーム『銀の小鬼狩り』も、黙って馬車に乗り込んだ。
タウロ達に息巻いた最初の勢いはそこには全く無いのであった。
「……じゃあ、僕達も馬車に乗って帰ろうか!」
タウロもみんなにそう声を掛けると王都への帰途に就くのであった。
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