第322話 反撃の狼煙

 村を落とされたダントン子爵の領兵と冒険者の一団は、領都を目指すゴブリン軍団の行軍を阻む為、その間の領都に続く大きな道に布陣していた。


 一度、村を落とされているだけに、士気は落ち、いつ敗走してもおかしくない雰囲気であった。


 そこに、王都からの援軍であるタウロ達冒険者が現れたのだが、何故かダントン子爵軍の士気は上がらずにいた。


「よくぞ来てくれた……。だが、これではまだ、足りないのだ。──すれ違ったと思うのだが、実はまた、王都にはさらに追加の援軍要請をしたばかりなのだ」


 領兵を率いる隊長が、ぼろぼろの姿でタウロ達一行に応対した。


「さらに援軍を?どういう事だ?」


 B-ランクチーム『銀の小鬼狩り』のリーダー・ハルクが、自分達では不足だと思われたと感じたのか厳しい口調で問い質した。


「……すまない。君達を不足と感じたのではなく、依頼した当初と違い、敵ゴブリンの数がこちらの目算を超えていたのだ。最初は400程をゴブリン将軍が率いていると思っていたのだが、そこにさらに400のゴブリン達が合流してきて数に押されて我々は村を放棄する事になったのだ……」


「合計800のゴブリンだって!?……いや、なり立てとは言え、俺はB-ランクのチーム『銀の小鬼狩り』のリーダーだ。今さら倍に増えたところで変わらないさ。なぁ、みんな!」


 ハルクは、強がっているが、顔は引きつっている。


 ゴブリン退治の専門家でも、流石に数が多すぎるという事だろう。


 それにこの数では、冒険者による討伐よりは、軍隊による集団戦の方が討伐しやすいかもしれない。


 だが、今から援軍を求めたところで来るのは数日後だろう。


 今、敗れたら数時間後には領都は蹂躙される。


 それを考えたらここで、死守するか、低い城壁の小城に立て籠もるしかないだろう。


 だが、立て籠もる場合、領民全員の避難の為にもここである程度、死守しなくてはいけないし、何より、小城に沢山の領民を避難させる事が出来るのかも怪しいだろう。


 ざっと見て、立地的にこのダントン子爵の領地は、王都の近くで治安は基本良かっただろうから、領兵も見た限り、多くはないようだ。


 タウロは、ボロボロになっている100人弱の領兵と、冒険者40人余りの一団を確認して、やはり現有戦力でゴブリン軍団を突破し、ゴブリン将軍の元まで虎の子の『銀の小鬼狩り』を温存して、止めを刺して貰うのが基本戦略だろうと考えた。


「俺達の実力を見せる時が来たな。俺達はゴブリン討伐の専門家だ、有象無象のゴブリン如きに怯むと思うか?」


 『銀の小鬼狩り』のリーダー・ハルクは先程までの引きつった顔から落ち着いたのか、自分達が先陣を切ると息巻いた。


 ……いやいや。あなた達は温存でしょ!


 タウロは内心ツッコむのであったが、タウロ達にお株を奪われたのがよっぽど悔しかったのだろう、周囲の説得も頑として聞かなかった。


「……やれやれ。ありゃ、冒険者としての腕は一流でも、軍隊の指揮官には全く向かないタイプだな。俺が指揮下にある傭兵なら契約代金叩き返して、一目散にとんずらするぜ」


 アンクが、タウロにそう耳打ちすると、首を振る。


「……ははは。今回はそういうわけにもいかないからね……。取り敢えず、『銀の小鬼狩り』さんの動きに合わせてこちらも次の手を考えよう」


 タウロは、みんなにそう提案すると、エアリス達もそれに頷く。


「私も今回は後衛には居られないわね」


 エアリスはにやりと笑う。


 エアリスは殴り杖として近接戦もイケる口だ、特にゴブリン戦は慣れている。


「エアリスは私がフォローするから安心するのだ!」


 ラグーネが笑顔でエアリスの背中をポンと叩いた。


「よし、みんな。基本は、陣形を崩さず、固まって『銀の小鬼狩り』の後方を死守しよう」


 タウロの当面の作戦に一同は頷くのであった。




 ゴブリン軍団が動き出した。


 その後方には、ゴブリン将軍がいるのだろう。


 数が多いのでその存在までは確認できないが、居ると思われる場所を中心にゴブリンが動いているのでなんとなく位置はわかるのであった。


 ゴブリンの動きに対して、まず、先制攻撃を仕掛けたのは、こちらの虎の子であるB-ランクチーム『銀の小鬼狩り』の魔法使いによる魔法攻撃であった。


 土の範囲魔法で威力は大した事はないが広い範囲に広がる先が尖った飛礫の雨がゴブリンに降り注いで、10数体仕留めて数を減らす。


 そこに、同じくリーダー・ハルクが剣技による範囲攻撃で正面のゴブリン達を10体近く一掃する。


 その間に、盗賊職の仲間が、魔道具をゴブリンの頭上に放り投げると火炎が生まれてその炎がゴブリン達に降り注ぐ。


 その火に包まれたゴブリン達は火を消そうと右往左往して悶え苦しみ次々に死んでいった。


 流石ゴブリン討伐の専門家を名乗るだけあって、その手際はゴブリンを倒すのに、丁度良い塩梅の範囲攻撃を繰り出していた。


 先陣を切った『銀の小鬼狩り』の正面は、怖気づいたゴブリン達が道を拓いて陣形が崩れていく。


「これなら、ゴブリン将軍のところまで、辿り着けそうだ。僕達も続くよ!」


 タウロは、『銀の小鬼狩り』の活躍するのを待って様子を見ていた仲間に攻撃する許可を出すのであった。


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