第321話 前哨戦

 クエスト依頼の目的地であるダントン子爵領に入ると、最初の情報とは違う状況になっていた。


 それは、ダントン子爵領内でゴブリン将軍とその軍団を迎え撃っていた冒険者と領兵の連合軍は、その勢いに押されて大きく後退している姿であった。


 遠目にも黒い煙が色々なところから上がっているのが見えて来て、どうやら戦況は芳しくないのが見て取れた。


「ダントン子爵領は以前来た事があるが、あの煙が上がっている山の麓は確か村があったはずだ。それが燃えているとなると、ゴブリン側に押されているみたいだな」


 タウロ達と同じ馬車に途中から同乗していたDランク帯チームの1人が、馬車内から黒い煙を眺めてみんなに状況を伝えた。


「お?前を走っているBランク帯チームが同乗している馬車が速度を上げたぞ。あっちも状況が逼迫してると感じた様だ」


 アンクが身を乗り出してその状況をタウロ達に伝える。


「早くこの山道は抜けたいところだね。……あ、前方に複数のゴブリンと思われる気配多数。──御者さん、ここで馬車は止めた方が良いです」


 タウロは、自分達の馬車の御者に声を掛けると止めて貰った。後ろを走る馬車もそれに合わせて止まる。


 前方を進む馬車は止まらずに少し進んだが、ゴブリンが前方に居て道を塞いでいる事に気づくとようやく止まった。


「あっちのチームの索敵系はタウロより劣っているみたいね」


 エアリスが、馬車を降りると、皮肉を言うのを忘れない。


「タウロの索敵能力は優れているからな」


 ラグーネが自分のチームのリーダーを褒めた。


「強化出来るまでは普通に索敵系能力に関しては、範囲面で劣っていたんだけどね」


 タウロはみんなが、『銀の子鬼狩り』チームに対して根に持っているのがわかると苦笑いして答える。


「前の連中、早速戦闘に突入したみたいだな。俺達も急ごう!」


 アンクはそう言うと、その魔改造された鎧の能力で強化された敏捷性でいち早く先に向かう。


 ラグーネも負けじとばかりに後に続く。


 そして、何よりそこに負けない速度で付いて行ったのがタウロであった。


 魔改造された防具で力と体力が大幅に強化されていたが、地味に『英雄の風格』でその俊敏性も大幅に底上げされていた。


 竜人族の英雄達が最初の頃に覚える基本的な能力として、竜人族にとっては大した事がなかったのかもしれないが、その実、『英雄の風格』は基本能力を大幅に底上げするかなり優秀な能力だったのだ。


 この時初めて全速力で走った事で、アンク達に付いて行けているタウロ自身も、驚くのであった。


「みんな早いけど、私は私のやれる事をやるわ」


 遅れたエアリスは慌てる事無く、立ち止まると魔法を唱えて一帯に結界を張り、馬車の周囲に魔物避けをする。


 こうする事で敵も突っ込んでくる事を躊躇する様になるのだ。


 そして、すぐさま、敏捷強化魔法を先頭のアンクからラグーネの順に唱える。


『銀の子鬼狩り』チーム達といち早く合流したアンク、ラグーネ、タウロは攻撃を仕掛けながら敵の数を確認する。


 ゴブリン50、ホブゴブリン10、ゴブリンメイジ1という編成でゴブリンメイジがゴブリン達を指揮していた。


 それを見定めた『銀の子鬼狩り』は、先ずはその指揮系統を分断しようと、ゴブリンメイジを狙ったが盾を持ったホブゴブリンが矢と魔法を遮った。


「ちっ!こいつらかなり頭が良いぞ。メイジの魔法に気を付けつつ、雑魚から掃討する!」


 B-チームのリーダーハルクが、仲間に指示する。


 その次の瞬間であった。


 そのB-チーム、『銀の子鬼狩り』の傍を、大気を震わせながら一筋の光が一瞬通り過ぎた。


 そして、その光の射線上にいる数体のゴブリン、そして、盾を構えているホブゴブリンを貫通して吹き飛ばしながら、背後に隠れて指示を出していたゴブリンメイジの頭に矢が突き刺さったのであった。


 リーダー・ハルクは、そのメイジが仕留められる瞬間を目を見開いて確認すると、すぐに光の矢が飛んできた方向に振り返る。


 そこには、『黒金の翼』のリーダー・タウロが弓を持って佇んでいた。


 そんな光景にみなが呆気に取られている中、アンクとラグーネは敵に突入し、草を刈る様にゴブリン達を掃討する。


 特にアンクはホブゴブリンを狙って大魔剣を振るい、ホブゴブリンが手にしていた木の盾ごと、ホブゴブリンを一刀両断し、返す刃で次も両断する。


 その活躍にチーム『銀の子鬼狩り』の連中も茫然と見ているだけであった。


 そこに、トドメとばかりにエアリスの雷魔法による範囲攻撃で多数のゴブリンが一瞬でそのほとんどが息の根が止めるのであった。


 ラグーネもアンク同様に残りのホブゴブリンと、ゴブリンを突き殺して全滅させる。


 こうして前哨戦は、圧倒的な『黒金の翼』の活躍で終了した。


「う、噂通りじゃないか。だが、勘違いするなよ。ゴブリン将軍はCランク討伐対象レベルだ。あれは俺達Bランク帯の『銀の子鬼狩り』でないとそうそう簡単には仕留められないぞ」


 リーダー・ハルクが、タウロ達の活躍に驚きながらも自分達の活躍の場はここではないとばかりに息巻くのであった。


「もちろんです。僕達もそんなに甘くないと思ってます。ゴブリン将軍までの露払いは僕達でやるのでご安心下さい」


 タウロは素直にそう答えたのだが、ハルクはそうは受け止めなかった。


「ふん!次は俺達も専門家として準備運動くらいしておきたいからな。今度は邪魔するなよ!」


 タウロの態度を皮肉と感じたのか、ハルクは次の戦いでは自分達の本気を見せると公言するのであった。


 本当に敵の数が多いから、B-チームは温存しておきたいだけなんだけどな……。


 タウロは内心でそう思い、苦笑いするしか出来ないのであった。

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