第320話 勧誘話
Bランク帯チームからの指名で、『黒金の翼』はクエストを引き受け、翌日の早朝には王都を出発する事になった。
B-ランクのチーム『銀の子鬼狩り』を筆頭に、Cランクチーム、Dランク帯チーム4の編成である。
用意してある3台の馬車に分乗する。
「『黒金の翼』は、うちと一緒に乗らないか?」
B-ランクチーム『銀の子鬼狩り』のリーダーと思われる男性が馬車に乗り込む際に、リーダーのタウロに声を掛けた。
「はい、わかりました。みんなもそれでいい?」
一流チームからの指名である、断る理由も無い。
みんなの承諾を得ると、タウロ達はB-チームと同じ馬車に乗り込んだ。
「じゃあ、道中よろしく頼む」
リーダーが、タウロ達全員と握手をする。
「俺はハルクという」
ハルクが爽やかな笑顔で挨拶した。
「リーダーのタウロです」
「噂は聞いてるよ。この3か月で君達の名前は上位冒険者チームの間では有名になっているからね、とても評判が良いよ」
ハルクはどうやらその評判を聞いて指名してくれたらしい。
馬車は出発して、揺られ始める。
「ところで君達。何でもよく引き抜き話を持ち掛けられているんだって?」
ハルクは話題を提供しようと思ったのか、普通なら嫌がる話を振って来た。
「……ははは。うちのメンバーはよくそういう話があるみたいです」
タウロが最初から遠慮の無い質問に、苦笑いしながら答えた。
「みんな悪気はないんだがな。そういう話は、王都の上位冒険者チーム間ではよくあるんだよ。うちも王都に来たばかりの頃は、いきなり主力の戦士スキル持ちが引き抜かれて困ったものさ」
「そうなんですね」
タウロは相手に合わせて相槌を打つ。
「王都で優秀な人材を集めて活躍したら、スポンサーも付きやすいからね。そうなると色んな所から引く手数多になって仕事も選び放題になるからみんな必死なんだよ」
「へー」
タウロは、また、相槌を打つ。
この話、まだ続くのだろうか?
タウロは仕事の話をしたいところであったが、まだ、王都の冒険者事情話は続く。
「俺達『銀の子鬼狩り』は、その名の通り、ゴブリン退治で有名になってね今回の様な上位種狩りが専門になっているんだが、もちろん、普通のゴブリン退治もやっている。どこにでも沸くゴブリン退治は需要があるから、チームの拡大を図っていてね。実は、下部のチームがいくつかうちには所属しているんだ」
「そうなんですね」
タウロは話を聞き流し始めていた。
「そこでだが……、どうだい君達。チームごと、うちに来ない?」
ハルクはこの為に長いフリを話していたのだ。
「え?」
タウロは聞き返すと同時に、やっと自分達が勧誘をされていた事に気づくのであった。
「うちで腕を磨けばCランクもすぐだと思うんだよ。Bランク帯である俺達『銀の子鬼狩り』は、そこそこ有名だし、名前を使って貰っても構わない。それに俺達が直々に鍛練に付き合って上げても良い。正直、Bランク帯からチーム全体でっていう誘いは中々ないと思うんだけど、どうだい?」
本題を話したハルクはぐいぐい来る。
エアリス達は黙って聞いていたが、また、この話かと溜息を吐く。
どうやら、タウロがいない間にも同じ様な話があったようだ。
「ハルクさんでしたっけ?私達、以前にも同じ様なお誘いをされた事ありましたけど断りました。その時の相手は、”B+チーム”でしたけどね」
エアリスがリーダーの時の勧誘話をしてみせた。
これはもちろん、お宅より格上に誘われたけど断っているから察してね、という意味だ。
「むっ……。だが、うちは昇格のノウハウも教えているから、上に行くのも早いと思うよ?それに、君達がいくら優秀とはいえまだDランク、身近に格上の人間がいたら参考に──」
「あんたさぁ。俺達『黒金の翼』を評価してくれているのはわかったが、自分達の目で先ずは、うちの強さを確認してからにしたらどうだい?」
アンクが、意味深な事を言う。
「言うじゃないか。今回のクエストはゴブリン将軍とその軍団の討伐だが、うちはその専門分野でB-ランクチームだぞ?その俺達よりも上だとも?」
「おいおい、誰もBランク帯チーム様を相手にそんな事は言っちゃいない。勧誘が早いという話さ。だから今回のクエストで確認して評価してくれってことさ」
アンクは、相手に怯む事無く言い返す。
「アンク、挑発しないで」
タウロが止めに入った。
「……わかった。勧誘するなら早い方が良いと思ったが、では、今回のクエストでその噂の実力を見せて貰おうじゃないか!それに後悔するなよ。うちは、他のチームも誘うつもりだからな。噂以下だったら、こんなおいしい話、なくなると思うんだな」
ハルクはどうやら、今回の指名したチームは全て唾を付けている様だ。
この討伐クエストは、最初から帰還までの間に勧誘して、得意分野で実力を見せ、説得し、引き入れるつもりだったのだろう。
ただのゴブリン将軍討伐クエストではなかった事に、タウロは溜息を吐くのであった。
当然ながら、移動の休憩時間にタウロ達は馬車を降りると他のチームと変わる事にした。
移動の間に、馬車内は最悪の雰囲気だったからだ。
「アンクも大人なんだから、今度からあんな事しないでね」
子供であるタウロに注意されるとアンクは素直に頭を下げた。
「すまん、リーダー!こっちを格下に見てるのがどうにも気に食わなくてさ」
「あっちはB-ランクだもの、格上には違いないよ。まあ、確かにアンク達と比べると、言う程あんまり強いという印象は受けなかったけど……」
タウロは注意しながらも、アンクの言葉に多少賛同して、仲間の強さを評価するのであった。
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