第238話 ◯ちとの遭遇

 タウロ達はその場で縛り上げられると、近くの古城跡にある建物に連れていかれた。


「ここで何をしてた?話さなければこの場で一人ずつ殺していくぞ」


 この場の責任者と思われる、顔を布で覆った男がタウロ達を尋問した。


「ちょっと待って下さい。僕達はこの辺りを偵察する様に依頼があったので来ただけです。」


「……偵察?」


「はい。あなた方がいないか確認の為の偵察です」


 タウロが意味ありげに答えた。


「このガキ……!他に何を知っている?いや、ここでしゃべらせるのも不味いな。拠点内の牢屋に一旦全員連れて行け。尋問はそこで行う」


 責任者の男がそう言うと、部下の黒装束の人物達がタウロ達を引っ立てて古城跡に築かれた低い城壁内部に連行していく事になった。


 古城跡地は、城壁などは一度打ち壊されていたはずだが、残されたその土台に新たに森に溶け込む様な城壁を築いていた。

 内部も木が生い茂り、城壁さえ無ければ森の中とあまり変わらない。

 暗殺ギルドの者達にとっては、視界を遮る木がある方が守り易いのだろうか?

 埋められていた地下室も掘り起こされ利用している様だ。


 タウロ達はその地下2階の牢屋に入れられる事になった。


「おい、ソーク、仕事だ!無駄飯喰らいのお前の役目はこの捕虜達の尋問をするまでの間、見張りをしていればいい。逃がすなよ?」


 地下の薄暗い奥から、一人の男が呼ばれて小走りで駆け寄ってきた。


「捕虜ですかい?こんな辺鄙な森の中で珍しいですね!」


 そう答えて蝋燭の明かりの元に映し出された男は、タウロの元父、ソーク・サトゥーであった。


「一人は美女じゃないですか!ぐへへ!こっちの娘ももう少し大きくなれば……。うん?」


 ソークは薄暗い中、一人一人の顔にランタンの灯りを近づけて顔を確認していたら、三番目の子供の顔に見覚えがあった。

 いや、見覚えどころではない、自分を落ちぶれさせた原因そのものである息子、タウロだ。


「な!このガキは俺を犯罪者に陥れた元凶ですよ旦那!」


 ソークは実の息子との再会を喜ぶ事なく悪態を吐く。

 もちろん、タウロも親子の縁を切ったとはいえ、血の繋がった元父親であるが、喜べない再会であるのは確かで、悪態を吐きたいのはソークだけではない。


「……自業自得でしょう。自分から身を落として指名手配されて置いて、何を今更……」


 タウロはうんざりした顔をしてため息を吐く。

 エアリス達はタウロの顔見知りらしい男に、どう反応していいのかわからなかった。


「お前の話はどうでもいい、尋問の用意ができるまで牢屋に入れて置け」


「へい!わかりやした!」


 ソークは、すぐ、牢屋の鍵を開けるとタウロ達を荒々しく汚い室内に押し込んでいく。


「立場が逆転したなタウロ!お前がここに何をしに来たか知らんが、ここは暗殺ギルドの拠点の一つだ。生きて帰れねぇぞ!」


 ソークは勝ち誇ると、自分の話を始めた。


「お前のせいで俺がこれまでどんな苦労をしたかわかるか?盗賊に身を落とし、そこで討伐から逃れて転々とし、大都市に転がり込んで人攫い集団の手下になり、そこも追われ、また、転々としていたら俺のスキルを貴重だからと暗殺ギルドが拾ってくれたのだ。ここまでの間、大変だったんだぞ!」


 鉄格子を棒で叩くとタウロを怒鳴る。


「それもこれも自業自得でしょ。あなたが招いた事です」


 タウロは、相手もしたくないという表情で冷たくあしらった。


「タウロ、顔見知り見たいだけど、このクズそうな男は誰なの?」


 エアリスがオブラートに包む事無くタウロに聞いた。


「……僕の元父親」


 言いたくない単語をタウロは口にする。


「「「えー!?」」」


 エアリス達は一斉に驚いた。


 存在は聞いていたが、まさかこんなところで出会うとは。

 そして、聞いていた通り、クズそうな男だ。


「タウロも大変だな。こんなク……、男が親とは……」


 ラグーネが厭らしい目つきで自分を見るソークを軽蔑の眼差しで見返す。


「……ゴブリンがグリフォンを生むくらい可能性が低い成功例だったんだなリーダーは……」


 アンクが、冷たい眼差しで目の前の男を見ながらタウロに同情した。


「本当ね。タウロが父親に似なくて良かったわ。きっと母親似なのね」


 エアリスは安堵のため息を吐く。


「うるせい貴様ら!尋問までの間に、俺がお前らを痛めつけてもいいんだぞ!……そうだ、そこの綺麗なねぇちゃんを好きに出来るな……」


 ソークは手にした棒で鉄格子をガンガン叩いて威嚇していたが、ゲスな思い付きにニンマリした。


「「「クソだ……」」」」


 文字通りの男を目の前に、みんなの想いが口から出た瞬間であった。


 牢屋の鍵を開けるとソークが入ってくる。

 手前に居たアンクを棒で叩いて奥に追いやる。

 本当にラグーネに手を付けるつもりらしい。


「男に用はねぇんだよ!」


「くっ!」


 アンクが棒で殴られながらもラグーネの前に身を挺した。


「止めなさいよクズ!」


 エアリスが、はっきりと言う。


「こんなところで、こんなクズに……!クッ、殺せ!」


 ラグーネがいつもの台詞と共に、ソークを貶す。


「うるさい!お前らは引っ込んでろ!……うん?」


 アンクを棒で殴り、ついでにタウロも殴ろうとした瞬間だった。


 目の前のタウロが一瞬消えたかと思うと、その場には縛っていたロープだけが残り、次の瞬間にはソークの横に現れ、振りかぶる棒を掴んでいた、『空間転移』だ。


「とりあえず、今は寝てて」


 タウロはそう言うとソークの手にする棒を捻って取り上げるとそのまま頭を痛打した。


「ぎゃっ!」


 ソークは為す術も無く短い悲鳴を上げると失神するのであった。

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