第214話 指令書の内容
魔石から壁に投影された内容は、なんとダレーダー伯爵暗殺計画の指令書であった。
暗殺ギルドから送り込まれた呪術師が中心の計画で、呪殺石をダレーダー伯爵の生活圏に人を使って忍ばせ、呪い殺すというものだった。
沢山の魔石に忍ばせる方法から、庭の石に混ぜるなど、事細かにやり方が記されている。
一度、現地で試験を行ってその確実性を確認しておくようにと念も押されていた。
「……この試験が依頼主リリョウさんの両親で行われたって事かな」
タウロが、一つの仮定を語った。
「多分、普段から揉めていたそうだから、私怨もあって対象に選ばれたのかもしれないわね……」
エアリスがその仮定に付け加えた。
「こうしちゃいられねぇな。俺は衛兵に通報してくるぜ」
「そうだね。ここまで話が大きくなると僕達の手に余るね。頼むよアンク」
タウロが頷いて魔石を投げると、アンクはそれを受け取った。
そして、お店を飛び出すと、走って衛兵を探しに行った。
「私達はどうするのだ?衛兵が駆けつけるにはまだ時間がかかるだろうし、先にその主犯の屋敷に行ってみるかい?」
ラグーネが提案する。
「そうだね。その間に逃げられても困るから、行ってみよう」
三人は頷くと、お店を後にして主犯の屋敷に向かう事にした。
日も落ち、暗くなった主犯の大きな屋敷の周囲は、タウロが作った魔道具『ランタン』の無数の灯りで煌々と照らされていた。
主犯の屋敷から、叫び声やうめき声が聞こえてくるので、近くの住民がランタンを持って野次馬として集まってきたのだ。
「……タウロの呪い返しが成功してるみたいね……」
屋敷から聞こえる叫び声にエアリスが、その凶悪な威力にゾッとしながら感想を漏らした。
「声が聞こえるという事は呪い返し対策をしてたって事だろうから、死なずに済んだみたいだね。あれだけの呪いだから、自業自得ではあるんだけど……」
タウロも我ながらその威力に寒気を感じる思いであった。
そこに、衛兵を連れたアンクがやって来た。
衛兵は野次馬を整理しつつ、屋敷に入って行く。
「なんか凄い叫び声が聞こえるんだが……?」
アンクが、野次馬に混ざっていたタウロ達をみつけて近づいてきた。
「呪い返しの効果みたいだ」
ラグーネが答える。
「そうか。まあ、人を呪うなら自分の墓も用意せよ、だったか?奴らにとっては、自業自得だ、気にするなよ」
アンクはタウロの肩を叩くと慰めるのだった。
「そうよタウロ。あっちはリリョウさんの父親を呪い殺した上に、領主を暗殺しようと企んでいたんだから」
エアリスもタウロを気遣って励ました。
「そうだぞ。悪の栄えた試しなど無いのだからな。今回の鉄槌は正しい事だ」
ラグーネも呪い返しは正当な行為だと言いたいらしい。
そんなやり取りをしていると、主犯である地元の有力者の男と、呪術師らしきローブの男、そして、探りを入れてきていた小男が叫び声を上げ、苦しみにのたうち回りながら衛兵に連行されていく。
「助けてくれー!お願いだー!この苦しみから解放してくれー!」
「肌の下を何かが蠢いてるだ!誰か取り除いてくれ!」
「あー!苦しい……!誰か殺してくれー!」
現場に犯人達の叫び声が響く中、馬車に乗せられて遠ざかって行くのだった。
それを見送っていると、衛兵の一人が、タウロ達に声をかける。
「命の恩人よ、久しぶりだな。今回もお手柄だったな」
それは、いつぞやの領兵隊を率い、魔物の討伐を行って危機に陥っていたところを、タウロ達が救援した隊長だった。
「あ、お久しぶりです」
タウロも顔を見て思い出し挨拶する。
「お手柄で感謝の限りだが、今回の経緯を聞きたいから、同行して貰っても構わんか?」
「わかりました。そちらも仕事ですから同行します」
タウロは頷くと、隊長に付いて行く。
「すまんな」
隊長は礼を言うと、タウロ達を連れて詰め所に向かうのであった。
事情聴取でタウロ達は冒険者としてクエストをこなしただけで、魔石については偶然である事を強調した。
詰め所の地下の牢屋では、叫び声が続いている。
事情を知らない者が聞いたら、拷問を行っているかのような雰囲気だったが、もちろんそれはない。
リリョウの父親の呪殺について容疑者達はあっさり犯行を認めた。
領主であるダレーダー伯爵暗殺計画についても、問い質すと苦しみから解放されたい一心で容疑者達は正直に話した。
その結果、ダレーダー伯爵暗殺計画の立案者は王都にいる『あの方』と呼ばれる者で、今回の主犯である地元の有力者をお金持ちにしてくれた人物らしい。
いつも連絡の手段は魔石で、運んでくる者は、アレクサと名乗っていたそうだが本名ではないだろう。
謎は深まるばかりだが、タウロ達はリリョウの依頼を完了出来た事が一番だ。
あとは、衛兵に任せる事にして、深夜までかかった事情聴取に疲れて、ため息を吐きつつ衛兵に用意して貰った寝床で休むのであった。
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