第210話 注文の多いクエスト
ある日の朝のギルドのロビー。
タウロ達はいつもの通りクエストが張り出されている掲示板の前にいた。
「あ、私達向きのクエストがあるわよ」
エアリスがEランクのところから一枚のクエストを取ってみんなに見せた。
「えっと……。ダレーダーの街までの往復の護衛と荷物の整理、運搬、問題が起きた時はその解決、鑑定必須?」
タウロがエアリスに差し出されたクエストを読み上げた。
「なんだいそりゃ。注文の多いクエストだな」
アンクがそう言うとタウロの上から覗き込んで確認してきた。
「私は鑑定を持っていないが、タウロは持っているのか?」
ラグーネもタウロの脇から覗き込んでクエストを黙読すると質問した。
「ああ、鑑定みたいなものは持っているよ、物を鑑定する事に特化しているのを。前に説明した『真眼』がそれだよ」
「ああ、植物が鑑定できたあれか!タウロは珍しい能力を色々と持っているな。それに比べたら私など…。くっ殺……」
いつもの口癖が出るラグーネであったが、そこはスルーしてタウロはみんなに聞いた。
「このクエストは少なくとも往復とあちらでの滞在含めて3日は拘束される事になるみたいだけど、どうしようか?」
「報酬はそこそこだが、うちにはリーダーとラグーネがいるから運搬は楽だし、鑑定も出来るとなると、うちで請け負うのが一番かもしれないな」
アンクがもっともな事を言った。
依頼主の意に沿うEランク帯冒険者はこのダンサス支部では、うちのチームが最適だろう。他のチームなら、場合によっては護衛のみで、あっちで鑑定士を探す手間が増える場合もある。
そうなると依頼主の負担も自ずと増える事になる。
「じゃあ、これを引き受けるね」
「「「OK!」」」
みんなの合意の元、この注文の多いクエストをチーム『黒金の翼』が引き受ける事になるのだった。
タウロ達一行は早速、依頼主の元に行くと依頼主はすぐに受ける人がいたので驚いていた。
「まさか、出してすぐに見つかるとは思っていませんでした。注文が多かったし……」
依頼主であるリリョウ氏は注文が多い事は自覚していた様だ。
「では、出発はいつにしましょうか?あと、仕事の詳しい内容もお願いします」
タウロが、本題に入った。
「それなら、明日の朝一番でお願いします。それと具体的な内容ですが……、実は私の実家がダレーダーにあるのですが、父が最近急死しまして、母も体調が悪いので自然豊かなこっちに引っ越しをしようと言う事になりました。実家は雑貨屋をしてるので、商品の整理、処分なども一緒に出来たら助かります」
と、リリョウは内容を説明した。
「問題が起きた場合とは?」
ここまでの説明を聞く限り、わざわざ付け加えた「問題が起きた時の解決」の意味が分からなかったのだ。
「あ、それは、生前父が地元の有力者と揉めていたらしいので、自分が行ったら、もしかしてその有力者と揉める事があるかもしれないと思ったんです」
「なるほど、そういう事ですか……」
思ったより厄介そうな気がしてきたタウロであったが、引き受けたからにはちゃんとクエストを完了させるしかない。
トラブルが無い事を祈るしかないだろう。
翌日の朝。
依頼主のリリョウが馬車を用意してくれたので、全員乗り込むとダンサスの村を出発した。
徒歩でない分、楽な行程になりそうだ。
ダレーダーの街まで一日の距離、これは何も起きる事無く夕方には到着した。
「それでは明日の朝、このお店に来て下さい。私は母の体調が気になるのでこのまま残ります」
依頼主のリリョウがお店の扉を開けて店内を確認しながら、タウロ達に言った。
タウロは何気なくその空いた扉から店内を眺めたが『気配察知』に通常とは異なる気配を感じた。
嫌な感じの気配だ。
人のものではない。
だが、どこかで感じたものと一緒だったので、リリョウが店内に入って扉を閉めようとしたところを、タウロは扉に手をやって閉めるのを止めた。
「どうかしましたか?」
リリョウが不審に思ってタウロに聞いた。
「ちょっと、店内を見させて下さい」
タウロはそう言うと、店内に入り『真眼』を使う。
お店の奥の部屋には横になっている女性のシルエットがある。
きっとリリョウの母だろう。
他には人の気配はない。
だが、嫌な感じはある。
タウロが見渡してついでに商品も確認していくと、店内の受付の奥の棚に置いてあるこぶし大の石に目が止まった。
『呪殺石』
『真眼』にはそう名前が表示された。
説明には、
「呪術者からの呪いを経由して対象を呪う為の特殊加工された魔石。相手の近くに置けば置くほど呪いの効果が発揮できる。とても希少」
と書いてある。
早速、問題を発見するタウロであった。
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