第208話 出店の提案
ダンサスの村、マーチェス商会の一室で代表であるマーチェスとタウロは商談をしていた。
「露店……ですか?」
マーチェスは突然の提案に咄嗟には思考が追いつかなかった。
「はい。グリフォンの山村のみなさんが運営できる規模となると、露店レベルが丁度いいかなと思ったので」
タウロはオサーカスの街に行く途中の山村(グリフォン討伐した山村)の収入源について露店の運営を提案していた。
あそこと独占契約をしてるのはマーチェス商会なので話を持ち掛けたのだ。
「ああ、なるほど。では、例のジャガモーとトモローの料理の商品化ですね?」
説明を聞いて、マーチェスも理解して聞き返した。
「ええ。あれは簡単なので経費もあまりかかりませんし、山村が作る調味料のマスタードやマヨネーズ、それにトメートを使ったケチャップをアピールするのにもいいと思うので。……問題は保存方法ですが……」
「実は、村の者達がマヨネーズが生の卵を使う事に躊躇しているのですが……」
「ああ、食中毒を恐れているんですね?それは僕の作り方通りなら安全です。材料のお酢には殺菌効果があって必ず十%以上混ぜる様にしておけば、サルモネラ菌も殺菌してくれると思います。お酢をケチると十分に殺菌できないのでそこは気を付けて貰わないといけませんが……。その他の保存や運搬については大丈夫ですか?」
「それは、もちろん!タウロ殿が王都で仕入れて貸し出してくれたマジック収納付きポシェットや、鞄のおかげでうちが責任をもって扱いますから大丈夫です!」
マーチェスは肌身離さず持っているマジック収納付き鞄を軽く触り、胸を叩くと自信満々に答えた。
「すでに山村にはポシェットを貸し出してますから、あっちはあっちで現地の村人をうちの商会支部の従業員として雇う形を取って、周囲の村々やオサーカスまで足を運んで定期的に調味料を卸せます」
「オサーカスと言えば、リーダさんはマーチェス商会オサーカス支部長になってるんですよね?」
「はい。先月、出来たばかりですが、魔道具ランタンと濡れない布関係の商品のおかげで赤字を出す事なく軌道に乗ってます。あっちでの出店の事は山村側とリーダに任せていれば大丈夫でしょう」
タウロ達と一緒にオサーカスの街でキシワンダ商会と取引をしていたリーダは、早くもマーチェスが全幅の信頼を寄せる右腕として収まったようだ。
「では、各所に露店を展開する為にこの様な形にしてみました」
タウロは、一枚の折り畳んでいた紙を机の上に開いた。
そこには、濡れない布を屋根に利用した組み立て式の比較的に軽量で済みそうな露店の図面であった。
「これは、また、簡単な作りですね」
「はい。ちゃんと防火対策も考慮して設計してます。これならマジック収納付きポシェットに商品と一緒に余裕をもって収まります」
「これはいい。移動が楽そうだ。場所代を日割りで支払っていろんな場所で出店できますね」
「ええ。後片付けも楽ですし、あまりコストもかからず出店が出来て、移動も簡単、人手もかかりません。マジック収納付きポシェットが無い場合でも荷車に乗せての移動が楽ですよ」
「という事は、各村や街での展開も楽という事ですね?」
「はい、山村の皆さんのやる気次第でいくらでも展開が可能です」
タウロの提案を、マーチェスはすぐに気に入った。
「よし、やりましょう!この図面なら契約してる木工師が簡単に作ってくれます」
こうして、山村の収入源となる露店による商売が始められる事になった。
山村側は、この提案がタウロからと聞いてすぐに納得した。
近隣の村に早速、試しにと下りて行って露店を出してみると、フライドポテトと蒸かしジャガモー、そして、音も鳴って周囲の興味を引き易いポップコーン(塩味)はすぐ売れに売れた。
「このホクホクの蒸かしジャガモーと、このマヨネーズっていうソースが堪らなく合うな!」
「こっちのポップコーンってのもサクサクと軽い食感で美味しいぞ!」
「ふふふ、お前ら、このフライドポテトの一番おいしい食べ方は、この三つの調味料を混ぜたのが最高なんだぜ!」
シンプルでありながら安さと調味料の美味しさもあって、リピーターが後を絶たず、出店するとすぐにお客の列が出来るという大人気の状態になった。
山村はこれに手応えを感じるとマーチェス商会オサーカス支部のリーダにオサーカスの街での本格的な出店を相談し、リーダは快諾。
すぐにオサーカスの街でも人気になるのだがそれは少し先のお話。
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