第180話 村への帰郷と……

 タウロはエアリスを気遣い王都をいつ発とうかと決めあぐねていた。


 エアリスはまだ冒険者としてやっていくと決断はしているものの、父親とまた当分お別れする事になるのだ、父親の方も娘が心配だろうし、こういう事に関してはタイミングがわからずにいた。


 ガーフィッシュ商会とは、仕事の事で重要な事はもう、ほとんどなかった。

 あとは、ガーフィッシュ商会が売りまくって儲け、自分にも利益が入ってくるという流れなのでもうやることがない。


 そんな手持無沙汰な日が数日たったころの昼、エアリスが部屋を訪ねて来た。


 部屋に招き入れたタウロは、早速話を聞いた。


「ダンサスの村にはまだ帰らないの?」


 エアリスがタウロの悩んでいた件を聞いてきた。


「え?逆にエアリスはもういいの?」


 タウロは思わず聞き返した。


「私?私はいつでもいいわよ。その方がパパもメイと気兼ねなくイチャイチャできるだろうし。それにシンとルメヤもいい加減寂しがってるんじゃないかな?」


「一応、こちらの様子は手紙で何度か送ってはいるんだけどね」


「でも、あの二人、あんまり読み書き得意じゃないからどのくらい伝わってるか怪しいわよ?」


「……確かにそれ忘れてた。でも、ギルドで代読して貰ったりとかできるし……」


「そういう事する性格じゃないと思うわよ?」


「……だね」


 タウロは二人の性格は前向きで素直、だがどこか抜けているとこがある愛嬌がある性格が共通するところなのでエアリスの指摘にも納得した。


「そうだね。そろそろ帰ろうかわが家へ」


 タウロが、帰郷の提案をした。


「うん!」


 エアリスは元気よくそれに返事をした。



 二人はヴァンダイン侯爵にダンサスの村に戻る事を伝えると、フルーエ王子や、近衛騎士団長コノーエン伯爵、ダンジョン研究者のシャーガなどお世話になった人達に改めて挨拶して回ると、数日後には王都を後にしたのであった。




「……えっと。あの前を歩く二人の女性の背中のマークって……」


「偶然ね、私も同じ事に気づいたわ……」


 王都から十日以上かけてダンサスの村に帰ってきたタウロとエアリスの目に最初に飛び込んできたのは、黒い翼に金の縁取りがしてあるチーム『黒金の翼』を象徴するマークであった。


 後姿から察するに、黒色の長髪で神官の様なゆったりした服装、治癒士だろうと予測できるプロポーションが良い女性と、ボブカットの茶髪で動き易そうな、肌が所々出ている革鎧を身に纏う盗賊職と思われる、こちらはスレンダーな体型の女性だ。

 よく見ると、背中のマークは、不格好でタウロが刺繍したものとは雲泥の差があった。


「……これは数か月の間に『黒金の翼』に新メンバーが入ったって事かな?」


 タウロが苦笑いしながら、エアリスの方を見た。


「新メンバーって私達に聞かないで勝手に!?」


 エアリスはすぐお怒りモードに入っていた。


「まあ、落ち着いて……。シンとルメヤが勝手に……、しないよね?」


 タウロもちょっと心配になってきた。


 後ろからの視線に気づいた女性二人組は、その視線を向けていた少年からシンとルメヤの名前が出てきたので近づいてきた。


「何、坊や達。私達、『黒金の翼』のファン?あら?(背中のマークに気づく)ちょっとあんた達!ファンでもそこまでマネするのは駄目に決まってるでしょ!」


 タウロの胸倉を盗賊職の女が掴もうとしたので、タウロはそれを払いのけた。


「それはこっちの台詞よ!誰の許可を得て私達のマークのマネしてるのよ!」


 エアリスが完全にケンカ腰で反応した。


「はぁ?私達は正真正銘『黒金の翼』の後衛治癒士の私、ユウと、前衛後衛どちらもこなすこっちが盗賊職のレンよ!この辺りで私達を知らないなんてもぐりなの?」


「知らないわよ!そもそも、『黒金の翼』のリーダーはタウロよ!リーダーの許可なしに何勝手な事言ってるわけ!?」


 エアリスはもう、止まらない。

 完全にブチ切れモードに入っていた。


「リーダー!?この子供が?…レン。この二人、ルメヤ君達が言ってた子達じゃない?」


 ユウと名乗った治癒士は心当たりがあったのか、相棒のレンに話を振った。


「『黒金の翼』を抜けて王都に行ったって話の?あれって、二人が言ってた冗談でしょ?それに、リーダーは、ルメヤ君よ。私はその彼女でメンバー、ユウはシン君の彼女で同じくメンバー。どっちが正しいかなんて明らかじゃない」


 レンという盗賊職の女はそう言うと、エアリスを値踏みして鼻で笑って見せた。


「はぁ!?シンとルメヤがあんたみたいな女、勝手に『黒金の翼』に入れるわけないでしょ!」


 エアリスはレンに食って掛かる。

 慌ててタウロはそれを抑えながら、本人に確認しない事には埒が明かないと思うのであった。

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