第129話 救出戦、そしてあの影

『黒金の翼』と『ナニワーズ』は一旦、配置について待機する事なく、建物に足早に近づくと見張りが「?」となっているままに襲撃して抑え込むと扉を蹴破って建物に突入した。


 タウロ達も、『ナニワーズ』に数秒遅れで扉を蹴破ろうとルメヤが構えた時、扉が開いて慌てたルヒが出てきた。


 お互い、


「「え?」」


 という状態で、一瞬固まった。


 ルヒは目の前の集団に攫い損ねた子供二人が混ざってたので、さらに思考が混乱したが、その集団が武器を構えたので条件反射的にすぐ剣を抜いて対応した。


「チッ!捕らえに来るほどの冒険者だったんかい!」


 ルヒは状況を理解して吐き捨てる様に言うと、先頭に立っていたルメヤに斬りつけた。


 ルメヤは慌てて盾を構えるが間に合わず、利き腕を斬られた。


「痛っ!」


「ルメヤ!」


 シンがルメヤを庇う様に間に割って入るとルヒに斬りかかった。


 その間にタウロがポーションをルメヤに投げて回復を、エアリスがシンに防御魔法をかける。


 ルヒはシンの斬撃を簡単に受け流すと蹴り飛ばした。

 普段、シンの十八番である体術だったがルヒの方が上手だった。

 蹴り飛ばされたシンはエアリスの方に飛ばされる。


「キャー!」


 シンとエアリスはぶつかって倒れ込み身動きが取れなくなった。


 タウロは小剣を低く構えてルヒに斬りかかる。


 ルヒはそれも、タウロの小剣を軽々と跳ね上げると、タウロの首から下げるタグを見て、


「Eランク帯程度にしては、上出来だが俺の相手やないな」


 という捨て台詞と共に路地裏へと消えていくのだった。



 表から突入したC+ランクチーム『ナニワーズ』は、見事ルヒの手下達を制圧し、子供達を救出していた。


 ルヒは扉が蹴破られる瞬間には裏口に逃げていたらしく、手下達に阻まれて『ナニワーズ』は追いかけられなかったそうだ。


「まさか、ルヒが速攻で逃げるとは思わんかったわ。すまんな、あいつは俺が相手するつもりやったのに」


 タウロ達Eランク帯には荷が重すぎる相手だったので、ナニワーズがルヒを狙っていたのだが、戦わずに逃げると思ってなかったのが誤算だった。


「もう一人、逃げた奴がいたが、それ以外は倒せたみたいやな」


『ナニワーズ』のリーダーが倒れてる手下の数を数えて言った。


「すまん、リーダー。逃げた奴、多分『遁走』のスキル持ちや。撒かれてもうたわ」


 盗賊職の男が、逃げた男を追っていたのか外から戻って来てリーダーに報告した。


「お前を撒く様なやつか!?そりゃ、凄いわ!だが、人物『鑑定』スキルで名前ぐらいはわかったんやろ?」


「そのくらいわな。ソーク・サトゥーって奴みたいや。この辺りでは聞かへん名前やな?」


『ナニワーズ』のメンバーのやり取りを側で、何気なくルメヤ達をポーションで治療しながら聞いてたタウロはギョッとした。


 ソーク・サトゥー、聞き間違いでなければ、同姓同名の別人でなければ、タウロの元父親だ。

 縁を切って苗字も捨てているし、そうでなかったとしても、『鑑定阻害』(極)があるので、鑑定されても自分との結びつきは一切バレないが、内心では複雑な思いでいっぱいだった。


 捕縛されたという噂は聞かなかったけど、こんなところにいたのか……。


 内心、どっと冷や汗をかくタウロだったが、その事は口にせず、ルメヤ達の治療を終えると縄を解かれて地下から出てきた子供達を安心させる為に声をかけていくのだった。


「あの……、『遁走』スキルってどんなものですか?」


 タウロは元父親の情報について聞いた。


「『遁走』か?気配遮断、足跡消去、臭い除去、体温遮断など、逃げる時にのみ発動できる、条件が限られた特殊スキルだわ。……噂には聞いてたがあれほどまでに綺麗に足跡消されると、『遁走』スキル以外には考えられへん」


 盗賊職の男は、こんなん初めてやわ。と、まんまと撒かれた事に感心していた。


 ははは……、そんなスキルを持っていたとは……。


 指名手配されているにもかかわらず、ここまで逃げてきていたのはそのスキルのお陰に違いない。

 タウロは元父親との遭遇率に勘弁してほしいと思うのであった。

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